October, 19, 2016, 大阪--近畿大学理工学部応用化学科准教授の今井喜胤と大学院生の佐藤琢哉らの研究グループが、ビナフチルにケイ素を組み込むことで、固体状態でも円偏光発光する、安定性と実用性の高い発光体の開発に成功した。ビナフチルは、円偏光を溶液状態で発光することがすでに知られている。
円偏光は、3D表示用有機ELディスプレイに使用されており、また、植物の成長を制御する光としても実用化が期待されている。しかし、多くの発光体は直線偏光であるため、フィルタを用いて直線偏光を円偏光に変換している。フィルタを通すため、光強度が減少してエネルギー効率が悪化する。
研究グループは、溶液状態で円偏光発光することがすでに知られているビナフチルにケイ素を組み込むことで、固体状態でも円偏光発光する、安定性と実用性の高い発光体の開発に成功した。
また、円偏光発光体を光学材料として用いる場合、基本的に左・右回転の2種類の発光体が必要となる。通常は、異なる2種類の発光体を必要としていたが、今回の研究では、1種類のビナフチルユニットで回転方向が異なる円偏光発光体を作出可能であることを発見し、今後の合成コストの削減が見込まれる。
将来的には、円偏光発光体により3D表示用有機ELディスプレイなどのエネルギー効率が向上し、省エネにつながることが期待される。
研究グループは、光を回転させるキラリティ導入ユニット、また、光を放つ発光性ユニットとして光学活性ビナフチルユニットを用い、トリフェニルケイ素基を導入したオープンスタイルの光学活性ビナフチル発光体とクローズドスタイルの光学活性発光体を精製し、クロロホルム溶液に溶解させ、希薄溶液にて円偏光発光(CPL)スペクトルを測定した。(CPL測定には、日本分光製CPL-300を使用)
オープンスタイル、クローズドスタイルの発光体からは、それぞれ、375nm、363nmの円偏光発光(CPL)を観測した。CPLを光学材料として用いる場合、基本的に、左回転・右回転2種類のCPLが必要である。そのため、従来の手法では、キラリティの異なるR体・S体2種類の光学活性な発光体を必要としていた。しかし、同じR体のビナフチルユニットを用いているにもかかわらず、オープンスタイルでは右回転、クローズドスタイルでは左回転となり、回転方向が異なることを発見した。また、製品として利用する場合、固体状態で利用するが、これら発光体では、固体状態であるPMMAフィルム状態、KBrペレット状態からもCPLを発していることを確認した。
円偏光発光(CPL)に関しては、最近、さまざまな利用法が検討されているが、CPLを生み出す高輝度・高円偏光度(高い光の回転度)を備えたCPL発光体は、まだ開発途中であり、開発に向けて試行錯誤が続いている。
今回の研究により、さまざまな種類のケイ素置換基を導入しても発光体が作れる可能性があることがわかった。今後は試行錯誤を重ね、多彩な機能を持った円偏光発光体の作出や、さらに高輝度・高円偏光度の円偏光発光体の開発を進めていく。
論文は、国際的学術雑誌『Tetrahedron』の電子版に掲載された。