February, 17, 2014, 東京--東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構の荒川泰彦教授、マーク・ホームズ特任研究員の研究グループは、位置制御されたGaN(窒化ガリウム)系ナノワイヤ量子ドットを用いて、室温(300K=27℃)における単一光子の発生に世界で初めて成功した。
ダイヤモンドNV(窒素空孔複合欠損)中心など、単一光子源の室温動作例はあるものの、今回、開発した単一光子源は、室温において励起子が安定に存在でき、すでにLEDやトランジスタとして普及しているGaN系材料で単一光子源の室温動作を初めて実現、室温動作する単一光子源として初めて位置制御を実現するなど、実用向きデバイスとして一歩前進した。単一光子源は1個の光子に情報を載せ、量子情報処理を行う上で、重要なデバイスの1つで、今回の成果は、量子暗号通信や量子計算など、量子力学に基づいて絶対安全な秘匿通信や飛躍的な計算能力を発揮する量子情報処理システムの室温動作に道を拓くものと期待される。
開発技術の特徴
a)GaNナノワイヤを位置制御し、かつ高品質に選択成長を実現
電子線リソグラフィと有機金属気相成長法(MOCVD)を用いて、GaNをマスク基板表面開口部(径20nm、間隔20μm)へナノワイヤ状(高さ約700nm)に選択成長することで、ナノワイヤの高品質結晶成長と位置制御を同時に実現。この成果の主要な要素である微小量子ドットを形成するためには、極細ナノワイヤが必須となる。詳細な実験・解析に基づいて結晶成長条件の最適化を行い、高品質・極細GaNナノワイヤのMOCVD選択成長を世界に先駆けて実現した。
b)極細ナノワイヤ上に成長させることにより、量子ドットは比較的に小型化を実現
成長したGaNナノワイヤ表面をAlGaNで被覆後、その頂点に極めて微小で高品質なGaN量子ドット(高さ1nm、幅10nm)を形成し、さらに
AlGaNで被覆し、量子ドットを埋め込んだナノワイヤ構造とした。極細のナノワイヤ上に成長した量子ドットは通常の自己組織化で成長する量子ドットに比べ、高さ、幅とも半分程度と比較的に小型なため、線幅が狭く、きれいな発光スペクトルを得られる。
c)単一光子源の評価指標が低温から室温までほぼ一定を実現
開発したGaNナノワイヤ量子ドット単一光子源の評価を行った結果、300Kで単一光子源としての評価指標が十分な数値を示し、室温単一光子の発生を実証した。しかも低温から室温までその評価指標がほぼ一定という優れた性能を示した。ナノワイヤ構造を採用したことによる結晶の高品質化に加え、位置制御した微細ナノワイヤ上に形成される量子ドットが小型で、あるため、室温において十分な発光を得ることができ、さらにドット中の余分な固有状態からの雑音光や隣接量子ドットからの雑音光を排除できたことなどが要因と考えられる。
研究成果は、Nano Lettersに掲載されている。