August, 10, 2016, Rochester--身体の内部を切り開くことなく見る方法の研究は今なお医学研究の重要部分である。イメージングにおける大きな課題の1つは、今でも組織内の酸素の可視化である。ミュンヘン工科大学(TUM)生体イメージングチェア、ヘルムホルツセンタ(Helmholtz Centre in Munich)の生物・医療イメージング研究所ディレクタ、Vasilis Ntziachristos教授の研究チームは、この問題に対する新たなアプローチを開発した。
組織酸素化のイメージングは、簡単ではない。様々な技術が考案されてきたが、その各々はそれぞれ欠点を持っている。近年、この分野の研究は光音響学方法に注力している。特にマルチスペクトル光音響学トモグラフィ(MSOT)は、Vasilis Ntziachristors氏の研究の重要領域の1つである。
簡単に言えば、MSOTは光を音に変え、次に可視情報に変える。まず、弱いパルスレーザビームを組織に向ける。吸収分子や細胞が微小振動で反応し、次にこれらが音響信号を作る。音響信号は次に音響センサで拾われて画像に変換される。分子や細胞がレーザビームに反応する仕方により、光学的に、したがってその生化学的特性が見える。
理論的には、MSOTは血液に含まれる酸素量を知るために使用できるが、1つ大きな障害がある。光強度は深さにより変化する。光が通過する組織層全体でフィルタリングされるためだけでなく、多様な組織構造がそれぞれ異なる特性を持っており、それが光の散乱や吸収の仕方に影響を与えるからである。過去において、組織が伝搬光にどのように影響を与えるかを計算することでこうした問題を解決するいくつかの策があった。「しかし、組織は光学的に非常に複雑であるので、このアプローチは、これまでのところ、生体組織の光音響学的画像に柔軟に適用できていない」と論文の筆頭著者、Stratis Tzoumas氏はコメントしている。
研究チームは、全く異なるアプローチを考案した。光の空間的分布を記録するのではなく、チームのイメージング法eMSOT(eはeigenspectraを表す)は、複雑な組織の透過パスのシミュレーションを完全に避ける。その代りに、新しい方法は、組織を伝搬する光スペクトルを少数の基本スペクトルを使って記録できるという発見に基づいている。eMSOTは、新しいアルゴリズムと組み合わせた従来のMSOTデバイスからのデータを利用する。新しいアルゴリズムは、光スペクトルを記録する新しい方法に基づいており、組織内の光伝搬効果を補正し、組織の血液酸素化の正確な画像を得ることができる。
eMSOTにより、研究チームは生きた組織の血液酸素化レベルを皮膚表面下1㎝まで可視化することができた。「理論的に、イメージング深度はもっと拡大できる」とStratis Tzoumas氏は言う。「しかし3点で限界がある。ある点で、光がそれ以上浸透できなくなるからである」。従来の光学的、音響光学的アプローチに対してeMSOTでは正確さが大幅に改善された。非侵襲と放射線フリーは別にして、eMSOTは他の光学イメージング法に空間的、時間的に匹敵するか、それを上回る高解像度を実現している。「組織の酸素量についての情報は、研究や治療の様々な分野で重要である。例えば、腫瘍の成長、代謝作用の計測などだ。eMSOTが臨床利用できるようになると、標準的方法となるかもしれない」とVasilis Ntziachristos氏はコメントしている。