June, 2, 2016, 東京--理化学研究所、東北大学などの共同研究グループは、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)の高品質単結晶薄膜を作製し、電子を平面上に閉じ込めた二次元電子構造において、「量子ホール効果」の観察に成功した。
量子ホール効果とは、通常はミクロな世界だけで発現する量子効果が、特定の条件を満たすことで巨視的なスケールで現れる現象。量子ホール効果は、高い移動度を示す二次元電子においてのみ実現するため、電子相関(電子同士の反発力)の弱く移動度の高いs 軌道やp 軌道を由来とする電子が物性を支配する、GaAs系化合物半導体やグラフェンなどの限られた材料でのみ観察されていた。一方、遷移金属酸化物は、その物性を支配するd 軌道由来の電子(d 電子)が強い電子相関を持つため、超伝導や強磁性など多彩な物性を示す。このd 電子を二次元に閉じ込めることによって量子ホール効果が実現すれば、新しい二次元電子量子物性の開拓につながると考えられる。電子を添加(ドープ)したSrTiO3 は伝導電子がd 電子でありながら例外的に移動度が高いため、量子ホール効果の実現を狙った二次元電子構造の作製が、これまで盛んに試みられてきた。しかし、量子ホール効果が発現する条件である “低電子密度かつ高移動度” を同時に満たすことができなかった。今回、共同研究グループは純度の高い原料を用い、結晶性の高い遷移金属酸化物薄膜を作製する「ガスソース分子線エピタキシー(MBE)装置」を開発した。この装置を用いて高品質な量子井戸構造である「デルタドープSrTiO3構造」を作製し、整数量子ホール効果を観察した。電子相関の強い遷移金属酸化物における量子ホール効果の実現は二次元電子と強磁性や超伝導が融合した新しい物性の開拓につながる成果で、エネルギーをほとんど使用しない論理回路やメモリ応用への発展が期待できる。
研究成果は、国際科学雑誌『Nature Communications』に掲載される。
研究グループは、理化学研究所(理研)創発物性科学研究センターの高橋圭上級研究員、デニス・マリエンコ研究員、川﨑雅司グループディレクター(東京大学大学院工学系研究科教授)、サイード・バハラミー ユニットリーダー(東京大学大学院工学系研究科特任講師)、東北大学金属材料研究所の塚﨑敦教授らで構成。