May, 25, 2016, Bochum--統計によると、5人に1人が生涯でうつ病や不安に襲われる。こうした病気を引き起こすメカニズムは、まだ十分に理解されていない。とは言え、研究者は60年前から根本原因の1つは、神経伝達物質セロトニンレベルの変化であるとの仮定を研究してきている。
ルール大学ボフム(Ruhr-Universität Bochum)の超解像度蛍光顕微鏡ジュニアプロフェッサ、Dr Olivia Masseck教授によると、セロトニン系の働きを理解するのはすこぶる難しい。同教授は、その複雑なシステムを推測しようとしている。脳の神経伝達物質の受容体の数は全部で14あり、それらは異なる細胞タイプで生ずる。したがって、多様な受容体が個々の細胞タイプで果たす機能を判定するのは複雑な作業になる。
そのような受容体の目的を推測するために研究者は、活性化された後にどの機能が抑制されるか、あるいは調合薬の助けでブロックされるかを観察していた。しかし、多くの物質が影響を与えるのは1つの受容体ではなく、同時に複数である。さらに、薬剤が適用されるとき、研究者は、個別細胞タイプにおける受容体を区別できない。光遺伝学が開発されるまでは、セロトニンのシグナリング経路を空間的、時間的分解能で研究することは不可能だった。
光遺伝学によって、特定の神経細胞、受容体を光で正確にコントロールできるようにする。
同大学の研究者は主に5-HT1Aと5-HT1B受容体、セロトニンシステムの自己受容体に関心を持っている。これらはセロトニンを生成する細胞で生ずる。ここでは、放出される神経伝達物質の量を規制している。つまり、脳のセロトニンレベルを決定する。
通常、5-HT1Aと5-HT1Bはセロトニン分子が受容体に結合するときに活性化される。そのドッキング(結合)が細胞内の連鎖反応)引き起こす。このシグナリングカスケードの効果には、神経細胞の活動抑制が含まれる、つまり放出される神経伝達物質が少なくなる。
マウスの脳のある脳細胞を変更することでOlivia Masseck氏はセロトニンの助けを借りずに5-HT1A受容体を活性化することに成功した。同教授は、それと視覚色素、オプシンを結びつけた。もっと正確に言うと、同氏は色覚に関与する錐体から青、赤の視覚色素を利用した。これは、赤い光または青い光で作動させてセロトニン受容体を生成した方法である。この方法により、RUB研究者は不安や抑うつにおける5-HT1A受容体の果たす役割を特定することができた。
この目的のために、同教授は、感光性オプシンとセロトニン受容体でできた結合タンパク質を、無害にしたウイルスを使ってマウスの脳に送達した。脳組織に注入されると、ウイルスは光で活性化される受容体を特殊神経細胞に埋め込む。そこで、それが読みだされ、光活性化受容体が細胞膜に合体する。
研究者は、光を使って生きたマウスで受容体のスイッチをON/OFFすることができた。同教授は、不安テストで、この操作が動物の行動にどのような仕方で影響を与えるかを分析した。
通常環境下では、全くカバーがないため、動物は明るく照らされたボックスの中央を避ける。ほとんどの場合、動物は壁の近くにいる。Olivia Masseck氏が光を使って5-HT1A受容体をスイッチオンすると、マウスの振る舞いが変わった。マウスから不安が去り、プレクシグラスボックスの真ん中で過ごす時間が増える。
この結果は、追加テストで確認された。Olivia Masseck氏は、大きなプレクシグラスボックスの真ん中でマウスがフードペレットを食べる時間を止めた。通常の動物は、6~7分待って、真ん中に踏み込んで食べるが、セロトニン受容体をスイッチオンしたマウスは1分か2分後に食べ始める。「これは、セロトニン系の5-HT1A受容体シグナリング経路が不安にリンクしていることを示す重要な証拠である」と同氏は結論付けている。
次の段階では、どのようにして抑鬱行動が5-HT1A受容体の活性化の影響を受けるかを解明することになる。
Olivia Masseck氏は、光遺伝学は、今後数十年で人にも応用できるようになると考えている。「例えば、パーキンソン患者の脳深部の刺激に使える、必要とされるシグナリング経路の正確な活性化を容易にするからである、副作用は非常に少ない」と同氏はコメントしている。
(詳細は、www.ruhr-uni-bochum.de)