May, 9, 2016, Okinawa--沖縄科学技術大学院大学(OIST)光・物質相互作用ユニットのシーレ・ニコーマック准教授らは、ガラスマイクロレーザを作製し、それらを圧縮空気で調整する新技術を開発した。
研究成果は、ネイチャー・パブリッシング・グループが発行する電子ジャーナル「Scientific Reports」で発表された。これにより、ガラスマイクロレーザの連続生産が簡単にできるようになり、光通信や化学・バイオセンシングといった幅広い分野における応用が期待される。
マイクロレーザは、直径数十µm単位の微小な光学素子で、たった1色および1種類の波長が強い光を作り出す。OISTの研究チームは、「ウィスパリングギャラリー・マイクロレーザ」と呼ばれる特殊なガラスマイクロレーザを作製するための新たな手法を開発した。ウィスパリングギャラリー(ささやきの回廊)は英国ロンドンにあるセントポール大聖堂のドームに由来し、楕円形のホールなどで話し声が反射して遠く離れた人の耳まで声が届く現象を指す。ウィスパリングギャラリー・マイクロレーザはドーナツや球のような形をした装置で、エルビウムやイッテルビウムといった希土類元素を添加したガラスからできている。繰り返し光を反射させると、砂一粒ほどの小さい装置内に、長さ10~100mの光の通り道ができあがる。
研究チームは、石英(二酸化ケイ素)ガラスとリン酸塩ガラス(エルビウムもしくはイッテルビウムを添加剤として使用)の融解温度の違いを上手く利用し、ガラス基板にガラスを付着させるガラスウェッティング方式を用いた新マイクロレーザ作製法を開発した。この作製法では、1本の糸状のリン酸塩ガラスを溶かし、それをケイ素の中空毛細管の溝に流し込む。このようなことが可能なのは、ケイ素とリン酸塩ガラスの融解温度が、1500℃と500℃とそれぞれ異なるためである。この技術を使えば、直径およそ170µmの瓶型マイクロレーザを作り出すことができる。そこからさらに瓶型を、直径わずか数µmの薄膜に加工し、ケイ素の中空毛細管にコーティングする。
従来の作製法は、球状のマイクロレーザを1つずつガラス管に付着させるといった骨の折れる作業だったが、今回開発されたガラスウェッティング技術を用いれば、複数のマイクロレーザを素早く連続的に作製することができる。
今回の新技術により、マイクロレーザの光の波長と色を調整することも可能になる。最適な波長と色は、圧力と温度の最適な組み合わせで決まる。毛細管を通る圧縮ガスで管構造の壁を冷却すると、マイクロレーザの直径が縮小し、レーザ出力の波長を変えることができる。
このような技術で作製されたマイクロレーザを使って、マイクロ流体装置内の空気流量の測定もおこなった。その結果、マイクロレーザは市場の電子流量計の1万分の一の大きさであるにも関わらず、より高感度で流量を検知できることが分かった。
「高品質を保ちながらシステムのサイズと複雑さを変えることなく、レーザをマイクロスケールで調整することを追及した」と、研究論文の第一著者であるジョナサン・ワード博士は振り返り、「この研究成果が、バイオセンシングや光通信機器のスピーディで容易な製造法実現に向けた一歩となるかもしれない」と期待を込めて語っている。