April, 27, 2016, 東京--日本電信電話(NTT)NTT物性科学基礎研究所量子光制御研究グループの武居弘樹主幹研究員、稲垣卓弘研究員らのグループは、大阪大学大学院工学系研究科の井上恭教授らと共同で、組合せ最適化問題の解を高速に探索する「コヒーレントイジングマシン」実現の基盤技術である、光による大規模な人工スピン群の生成に成功した。
これは、内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)、山本喜久プログラム・マネージャーの研究開発プログラムの一環。
研究グループでは、光パラメトリック発振器と呼ばれる光の発振状態をスピンとして見立て、相互作用する多数のスピンが全体のエネルギーを最低とするようにその向きをとる現象を利用して組合せ最適化問題の解を探索する「コヒーレントイジングマシン」の研究を行っている。
今回、長さ1kmの長距離ファイバ光共振器中に配置した高非線形光ファイバ中の四光波混合(FWM)により、時間的に多重された10,000を超える光パラメトリック発振器を一括生成することに成功した。さらに、隣接する発振器を結合することにより、1次元のスピンネットワークを模擬し、光パラメトリック発振器群が低温下のスピンのようにふるまうことを確認した。
研究成果は、長距離光ファイバ共振器を用いて時間多重された光パラメトリック発振器を生成する今回の手法が、数千を超えるスピン数を持つコヒーレントイジングマシンの構築のための基盤技術として有用であることを示すものであり、大規模な組合せ最適化問題を従来に比して飛躍的に高速に解くコンピュータの実現に寄与することが期待される。
長さ1kmという長距離光ファイバ共振器を用いて、時間多重された10,000個を超えるOPOを一括発生することに成功した。光ファイバ通信の研究開発で培った技術を用いることで、現実社会で課題となっている複雑な問題を解くことが可能な大規模コヒーレントイジングマシンを実現するための多数の人工スピンの生成が可能となった。
また、隣接するOPO間に光結合を導入することで、最もシンプルなネットワークである1次元のイジングモデルを模擬する実験を行った。この実験により、室温で動作するOPO群が、低温下のスピンの振る舞いをよく模擬する、高品質な人工スピンとして動作することを確認した。
研究の要点
大規模時分割多重OPOの発生
1.長さ1kmの高非線形光ファイバ中の四光波混合より、位相0とπの光だけを増幅する位相感応増幅器を実現
2.位相感応増幅器を光ファイバループに挿入することで、長さ1kmの長距離光ファイバ共振器を構築し、位相感応増幅器を2GHzの繰り返しで動作することにより、10,320個のOPOを発生
3.発生したOPOの位相が0またはπに二値化しており、安定な人工スピンとして使用可能であることを実験で確認
1次元スピンネットワークの模擬
1. 1ビット遅延干渉計を共振器中に挿入することで、各OPOの光の一部を隣接するOPOに注入し、1次元の結合を実現
2. OPO結合の位相を調整することで、ネットワーク化された人工スピンが強磁性的・反強磁性的に振る舞うことを観測。また、位相感応増幅器の駆動条件を変えることで、ネットワークのエネルギーが低下することを観測。この結果、室温で動作するOPO群が、高品質な人工スピンとして使用可能であることを確認。
今後の展開について研究チームは、「今回の実験では隣接OPO間の結合のみを用いたため、模擬したネットワーク構造は1次元にとどまっていた。今後は、任意のOPO間に結合を実装することで、より複雑なスピンネットワークを実現し、大規模な組合せ最適化問題の解探索が可能なコヒーレントイジングマシンの実現を目指す」と説明している。
(詳細は、www.ntt.co.jp)