March, 23, 2016, 東京--富士通研究所と富士通研究開発中心有限公司(FRDC)は、大都市圏内に点在する複数のデータセンタ間を大容量かつ低コストで接続するため、1波長あたり400Gbps光送受信器に向けたデジタル信号処理の基本方式を開発した。
送信側から独自の基準信号を送信し、受信側でこの信号を用いてひずみを効果的に補正する新しい通信方式を開発し、160kmの無中継伝送実験に成功した。この技術により、光送受信器における構成部品の特性のばらつきや伝送路によるひずみの影響を高精度に補正することが可能となり、安価な光送受信部品を用いて1波長あたり400Gbpsの送受信が可能となる。
この技術は、低コスト化が期待されるシリコンフォトニクス技術を用いた光送受信部品の集積化にも適用可能であり、5Gモバイルネットワークや多様なIoTサービスを支える次世代分散コンピューティング基盤の構築に貢献する。
これまで、1波長あたり400Gbpsの光通信速度については、用途ごとに最適化・選別された高価な部品を使うことで実現されている。光送受信器の構成部品については、より安価な部品の利用や、別途開発が進められているCMOS技術やシリコンフォトニクス技術を用いることによる低コスト化が期待されるが、用途ごとに最適化・選別された高価な部品と比較すると性能が低くなり、性能にばらつきも発生するため、そのままでは、データセンタ間の通信距離として求められる100km程度の伝送距離を実現できなかった。
開発した技術
光送受信器のコスト削減において、特に大きな性能劣化が想定される送信器のひずみを受信器側で補正する新しい光通信方式を開発。
開発した方式では、送信器側で伝送路における信号ひずみの影響を受けにくい独自の基準信号をデータ信号とあわせて送信し、受信器側で送信器の信号ひずみを効果的に補正する。
開発した方式の特長
1.独自の基準信号を用いた新しい通信方式
従来は、送信器の出力信号を観測しながら信号ひずみを補正することによって、送信器として可能な限り品質の良い信号を送信することが一般的。しかし400Gbpsにおいては、求められる処理精度が高くなるため、送信器側で補正することが難しくなり、部品・回路コストが増大する。富士通研は、独自の基準信号を送信することにより、受信器側で送信器の信号ひずみを補正可能とする新しいデジタル信号処理方式を開発した。
2.受信器における新しい補正技術
従来の光受信器では、伝送路のひずみを補正してから信号検出のための位相再生処理を行う必要があったが、送信器のひずみの影響が大きい場合は補正が困難。今回、独自の基準信号を用いることで伝送路のひずみを補正せずに位相再生を可能とする技術を開発した。この技術により受信器は、まず位相再生と送信器のひずみ補正を行い、その後、伝送路のひずみ補正を行うことで、大きくひずんだ信号からでも変調されたデータの再生を可能にする。
この技術を用いることで、都市圏内に配置したデータセンタ間の広帯域ネットワーク構築に十分な距離を想定した160kmの光ファイバで400Gbps信号の伝送実験に成功した。また、課題であった低コスト部品などを利用した場合の特性ばらつきの補償に対しても適用可能。これにより、次世代の分散コンピューティング基盤を構成する、1波長あたり400Gbpsの光送受信器の低コスト化が実現できる。
富士通研究所では、シリコンフォトニクス技術と組み合わせた検証をすすめ、400Gbps光送受信器として2019年の実用化を目指している。