March, 9, 2016, Washington--東京大学の研究チームは、集積フォトニック回路(IPC)向けに半導体ゲルマニウム(Ge)から基本コンポーネントの作製に成功した。IPCは、中赤外波長で動作し、インターネット速度向上に寄与する。研究成果は、OFC2016で発表される。
中赤外光は、可視光よりも長くミリ波よりも短い波長であり、リモートセンシングや通信技術で多くの重要アプリケーションを持つ。日本の研究者は、中赤外光を効果的にガイドできる新しい光コンポーネントの動作実証に成功した。この研究はインターネットの高速化、二酸化炭素のような重要な分子の検出につながる可能性がある。
研究チームは、ゲルマニウム材料からその新しいコンポーネントを作製した。シリコンのように、従来の近赤外フォトニクスで一般に使用されるゲルマニウムは、Ⅳ族半導体。これは、周期律表の同じ列にあり、同じ電気特性を持つ。ゲルマニウムは、複数の特性を持ち、それによってゲルマニウムは中赤外光の伝達とガイドに特に適している、と東京大学電気系工学/情報システム学部Takagi-TakenakaグループのJian Kangは説明している。
ゲルマニウムは中赤外域で高い光透過性を持ち、したがって中赤外光は容易にそれを透過する。Siに比べてゲルマニウムは、光学的に興味深い特性を多く持つ。これらに含まれるものに、高屈折率がある。つまり、光がそれを透過するときにスピードが落ちることを意味する。ゲルマニウムは、3次非線形性が大きく、これは、例えば光ビームを増幅したり自己集束するために利用できる光学効果。また、フリーキャリア効果も大きい。つまり、材料中で電子やホールを運ぶ電荷。ゲルマニウムは、シリコンよりも熱光学効果が強い、これは温度による屈折率の制御がより簡単にできることを意味する。
「このような特性のために、Geベースのデバイスは中赤外でパフォーマンスが高くなり、新たな機能を実現する。さらに、歪GeとGeSnベースの材料から造ったレーザの最近の進歩は、ゲルマニウムが、同一のフォトニックチップ上で光を生成し操作するコンポーネントの両方を集積するための有望な材料となることを示している。
研究チームは、ゲルマニウムでできた基本的な光導波路コンポーネントを設計しテストした。これにはグレーティングカプラ、MMIカプラ、マイクロリング共振器も含まれる。グレーティングカプラは、自由空間からの光を導波路に効率よく結合するために使われる、またその逆の用途にも使用可能。MMIカプラは、ルータとしてあるいは導波路内の光信号処理用のカプラとして使用される、またマイクロリング共振器は透過する光のある波長をフィルタするために使用される。
研究チームが直面した最大の課題は、デバイス製造プロセスのコントロールであった。Kang氏によると、これにはゲルマニウムの研磨とエッチングが含まれる。
「現在、Geデバイスのパフォーマンス、最先端のSiベースのデバイスほどよくないかもしれない。理由は、中赤外用のGeベース光コンポーネントの研究が非常に新しく、製造プロセスの最適化に多くの問題が残っているからである。しかし、Geベースのデバイスには固有の利点がある」と同氏はコメントしている。
中赤外におけるゲルマニウムの魅力的な光学特性は、最適化されたGe導波路が同様のSiデバイスよりもコンパクトにできること、つまり同じスペースに詰め込めるチップが多くなることである。
二酸化炭素のような、多くの重要分子は振動状態が変わると中赤外光を吸収し放出する、したがって中赤外フォトニクスは、新しいセンサの基盤になる。炭素放出、隠れた爆発物、肝臓疾患やガンのような健康状態のモニタリングや検出が、Geベースセンサによってすべて可能になる。
Geベースのフォトニックチップは、光ファイバ通信の帯域を増やす可能性もある。「一般的な意味で、インターネットを大幅に高速化する」とKang氏は話している。
現在、研究チームは、製造技術の改善に取り組んでいる。その後、光スイッチなど、作製するデバイスを増やす計画を立てている。また、GeSnレーザとGe導波路デバイスを同一チップ上に集積する計画もある。