February, 16, 2016, 大阪--関西学院大学の畠山琢次准教授らは、JNC石油化学 市原研究所と共同で最高レベルの発光効率(電気を光に変換する効率)と色純度を持つ有機ELディスプレイ用青色発光材料の開発に成功した(JST戦略的創造研究推進事業の成果)。
有機ELディスプレイは、液晶ディスプレイに代わる次世代のフラットパネルディスプレイとして実用化が進んでいる。有機ELディスプレイ用の発光材料としては、現在、蛍光材料、りん光材料、熱活性化遅延蛍光(TADF)材料の3種類が利用されている。しかし、蛍光材料は発光効率が低いという問題があり、りん光材料とTADF材料は、発光効率は高いものの発光の色純度が低いという問題がある。色純度が低いと、ディスプレイに使用する際に、発光スペクトルから不必要な色を除去して色純度を向上させる必要があり、トータルでの効率が大きく低下するため、色純度の高い発光材料の開発が望まれていた。
研究グループは、発光分子の適切な位置にホウ素と窒素を導入し、共鳴効果を重ね合わせることで、世界最高レベルの色純度を持ちながら発光効率が最大で100%に達するTADF材料DABNAの開発に成功した。
DABNAは、ホウ素、窒素、炭素、水素というありふれた元素のみからなり、市販の原材料から短工程で合成できることから、理想的な有機ELディスプレイ用の発光材料として近い将来での実用化が期待される。また、ホウ素と窒素の多重共鳴効果を用いる分子デザインは、今後の有機EL材料開発の新たな設計指針になると期待される。
研究グループは、TADF材料の色純度を飛躍的に向上させる新たな分子デザインを考案し、その分子デザインに基づき、世界最高レベルの色純度を持つTADF材料(DABNA)を開発した。一般にTADF材料は、ドナーと呼ばれる電子供与性の置換基とアクセプターと呼ばれる電子受容性の置換基を用いて分子内のHOMOとLUMOを局在化させて、効率的な逆項間交差が起きるようにデザインされている。しかし、ドナーやアクセプターを用いると励起状態での構造緩和が大きくなり、色純度が低い幅広な発光スペクトルを与えることになる。これに対し、DABNAでは、元素周期表で炭素の左右にあるホウ素と窒素の多重共鳴効果を利用することで、6つの炭素からなるベンゼン環上の3つの炭素にHOMOを、残りの3つの炭素にLUMOを局在化させることに成功した。効率的な逆項間交差により、DABNAの発光効率は最大で100%に達する。ホウ素と窒素はHOMOとLUMOを局在化させるだけではなく、3つのベンゼン環を縮環させることで励起状態での構造緩和を抑制するという役割も担っており、色純度の高い発光スペクトルを得ることができた。その発光スペクトルの半値幅は28nmであり、実用化されている高色純度の蛍光材料をも凌駕する世界最高レベルの色純度を示している。
開発されたDABNAは、最高レベルの青色発光材料であるだけでなく、ホウ素、窒素、炭素、水素というありふれた元素のみからなることや市販の原材料から短工程で合成できることなどの優位性があり、有機ELディスプレイの高効率化と低コスト化が期待できる。また、DABNAの開発を通じて有効性が証明された多重共鳴効果を利用した分子デザインによって、今後、さらに優れた特性を持つ発光材料を開発することも可能。将来的には、家庭やオフィスの液晶ディスプレイの代替が進むことで、大きな省エネ効果が期待される。
(詳細は、www.jst.go.jp)