January, 29, 2016, つくば--産業技術総合研究所(産総研)電子光技術研究部門3次元フォトニクスグループ 榊原陽一 研究グループ長、吉田 知也 主任研究員らは、従来難しいとされてきた、シリコン光集積回路への光ファイバーや光部品の表面実装を容易にする光結合技術を開発した。
通常シリコン光配線はウエハ面内に形成されるが、今回開発した技術ではシリコン光配線の先端をイオン注入によりウエハ面に対して垂直方向に立体湾曲加工して、ウエハ面に垂直な方向から光集積回路へ光入出力できるようにする。曲げ半径を3µmまで小型化できるため、実用化への見通しが得られた。表面垂直方向から近接させた光ファイバとの光結合損失特性は2 dB程度と高効率であり、波長依存性・入射角度依存性・偏光依存性も小さい。これは、従来表面光結合の主流技術であった回折格子型光結合器とは動作原理が異なる、画期的な光結合素子である。データセンター内外の短中距離大容量光通信や半導体チップ間信号伝送などの光インターコネクションへの応用が期待される。
今回のシリコン光配線の立体湾曲加工では、まずシリコン光配線の先端部の周囲の石英ガラスクラッド材料を除去してシリコン材料を露出させた片持ち梁(はり)構造を形成した。次にこの構造にイオン注入を行い立体湾曲加工。イオンの種類、加速エネルギー、注入量で曲げ加工量を制御できるが、今回は従来に比べて注入量を大きくして曲げ半径約3µmという小型構造を実現。その後、さらに石英ガラスクラッド材料をこの構造の上に製膜して立体湾曲光結合器を完成させた。
シリコン光回路の入出力端にこの立体湾曲光結合器を形成したテストチップを試作し、表面垂直方向から接近させた光ファイバと光結合させて性能を評価した。その結果、光結合損失値が最小で約2 dBという高効率の光結合が、1535 nmから1610 nmの広い波長領域でほぼフラットな波長特性で得られることを確認した。さらに入射角度依存性と偏光依存性も小さいことが確認できた。
今回開発した技術は、ウエハ段階での検査用途に直ちに応用可能な特性を持っている。特に波長依存性、偏光依存性、入射角度依存性が小さいという特性は、検査技術の機構的許容度を大幅に増すので、検査用途から実用化を目指す。また、各種光部品の表面実装のための要素技術の開発も順次進めていく。
今回の研究開発は小片試料による実験室レベルでの原理実証であり、開発技術の実用化への橋渡しを行うためには半導体工場と互換性のある大口径ウエハでのプロセス検証実証が不可欠である。産総研等が運営するつくばイノベーションアリーナ(TIA)スーパークリーンルーム(SCR)の300 mmウエハ研究開発ライン等を用いたプロセス検証実証を行い、技術移転や共同研究を図っていく。
(詳細は、www.aist.go.jp)