December, 15, 2015, 東京--東京大学大学院情報理工学系研究科、平木敬教授らの研究グループ、WIDEプロジェクト、NTTコミュニケーションズと国内外のネットワーク機関による国際共同チームは、超高速科学技術データ通信・利用研究の一環としてTCP通信を超高速化する研究を実施してきた。今回、100Gbpsネットワークを通信距離にかかわらず高効率利用するTCP通信技術(LFTCP))を確立し、同技術の有効性を2015年11月に利用可能となった日米間100Gbpsネットワークを用い73GbpsのTCP通信を実現した。
現在広く用いられているTCP通信の限界(実験ネットワークでは29Gbps)の2倍を超える通信速度を実現したことは世界初。100Gbpsネットワークの活用、特に最先端の観測・測定機器から生み出される超多量のデータを利活用するための基本技術として使用する予定。
これまで、多量データの高速通信は、科学技術研究に不可欠な技術として、その重要性は広く認識され、10Gbpsネットワークを用いた通信は天文学、高エネルギー物理学や超高精細度画像通信に広く用いられてきた。研究チームは10Gbpsネットワークを高効率で利用するためのTCP通信技術を確立し、10Gbpsネットワークが広く用いられる技術的基礎を築いた。しかし、新たに登場した100Gbpsネットワークでは、その超高性能のため現在使われているTCP通信技術を用いては性能をフルに活用できず、活用にはUDPプロトコルを用いる、多数のTCP通信を並列に使うなど、通信方式の変更が必要だった。
TCPソフトウェアを改良し、100Gbpsネットワークを遅延時間の大小に関わらず高速なTCP通信で活用するLFTCP(Long Fatpipe TCP)ソフトウェアを開発した。LFTCPは従来のTCP通信速度限界をプロトコルおよびTCPソフトウェアを拡張することにより、TCPプロトコルとしての性質を変えずに100Gbpsネットワークに対応できる。LFTCPを、精密ソフトウェアペーシング方式と組み合わせることにより、単一のTCP通信で従来のTCP通信の限界を大きく超えることが可能になった。LFTCPはTCPプロトコルであるため、複数のTCPストリームでネットワークを共用する場合にも、公平な帯域の分割利用が可能であるとともに、パケットロスがあるネットワークにおいても信頼性を持ってデータを転送することが可能。
このLFTCPはオープンソース・ソフトウェアとして公開し、他の研究機関等で利用することが可能。
今回行った実証実験は、2015年11月に利用が開始された、日米間で最初の100GbpsネットワークであるTransPAC/Pacific Waveネットワークを用い、米国テキサス州オースチン市で開催されたSC15(スーパーコンピューティング2015)国際会議の展示場に設置された東京大学のPC2台の間のデータ通信により実施された。
ネットワークの経路は、(1)SCinet、(2)米国内はCentury Link、(3)太平洋横断はTransPAC/Pacific Wave、(4)日本ではWIDEプロジェクト/ Pacific Waveのルータにより折り返し、逆経路でSC15展示場に設置され、もう一台のPCでデータ受信した。この経路は全て100Gbpsネットワーク。実験で用いたネットワークの往復遅延時間は296msで、米国テキサス州オースチン市と東京の往復距離は21,153km。実証実験は、このTransPAC/Pacific Wave回線での最初の成果。
データ送信・受信に用いたPCは、安価なデスクトップPCで、プロセッサにはIntel Corei7 6770L(Skylake世代)、ネットワークインタフェースにはメラノックス社のConnectX-4ネットワークアダプタを用い、PCのOSにはCentOS Linux 7.1(1530)を用い、データ通信ソフトウェアとしてiperf3を使用。実験は2015年11月16日から17日にかけて実施した。
実験の結果、通常のTCPを用いると29Gbpsのデータ通信速度(理論値の97.7%)しか得られなかったことに対し、LFTCPを用いると73Gbpsの通信速度を達成した。これは、単一のTCP通信によるインターネット上の通信速度として従来の記録を破る世界最高値。