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2021年版レーザ市場予測

May, 25, 2021--レーザ市場、危機と課題に見舞われるも現状を維持

アレン・ノジー、コナード・ホルトン

新型コロナウイルスのパンデミックに見舞われ、景気は後退し、社会的にも政治的に不安定な情勢が続く中、世界レーザ市場は、いくつかの主要な部門で力強さを示し、脆弱な部門も、懸念されていたよりは健闘した。

はじめに
コナード・ホルトン(Laser Focus World誌編集主幹)

 誰もが簡単に列挙できる理由に基づき、2020年は非常に厳しい一年だった。壊滅的な影響を及ぼしたパンデミックや景気の後退から、社会的及び政治的な騒動まで、二度と繰り返されないことを願う一年だった。それでも、さまざまな理由に基づいて、多くのレーザ部門がまずまずの業績を上げ、力強く成長した部門もあった。部門ごとに状況や様相はそれぞれ異なる。
  レーザ市場全体の年間売上高としては、2020年の成長率は8.8%だったと推定される。前年
の2019年の推定売上高はその後改訂され、最終的に前年比で1.5%の減少だった。企業各社の2020
年最終四半期決算報告が本稿執筆時点でまだ発表されていないが(2021年1/2月発表予定)、2020年のレーザ市場総売上高は約160億ドルになると、本誌は見積もっている(図1)。
 朗報として、2021年には世界レーザ市場の売上高が、 15.5%という力強い成長を見せると、本誌は予測している。

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図1 レーザ年間売上高の推移と2021年の予測

本稿の読み方
 本稿では、世界レーザ市場を6つの主要分野に分割して、市場分析と予測を行っている。各市場分野には、複数の技術と応用分野が含まれており、それぞれの市場状況や業績結果は、大きく異なる場合もある。
 6つの主要分野は以下のとおり。

 材料加工とリソグラフィ:すべての方式の金属加工(溶接、切断、アニール、穴あけなど)、半導体とマイクロエレクトロニクスの製造(リソグラフィ、スクライビング、欠陥修復、ビアホール加工)、すべての材料のマーキング、その他の材料加工(有機材料の切断と溶接、ラピッドプロトタイピング、微細加工、格子製造など)が含まれる。
 通信と光ストレージ:テレコム、デ ータ通信、光ストレージの用途に使用されるすべての半導体レーザと、光増幅器用のポンプレーザが含まれる。
 科学研究と軍用:大学や国立研究所などで基礎研究と開発に使用されるレ ーザと、測距計、照明装置、赤外線防衛手段、指向性エネルギー兵器研究などの新規及び既存の軍用レーザが含まれる。
 医療と美容:眼科(屈折矯正手術と光凝固手術を含む)、外科、歯科、治療、皮膚、毛髪、その他の美容の用途を含む。
 計測機器とセンサ:生物医学計測機器、分析機器(分光計など)、ウエハとマスクの検査、計測工学、水準器、光学マウス、ジェスチャ認識、ライダ、バーコードリーダ、その他のセンサが含まれる。
 エンタテインメント、ディスプレイ、印刷:ライトショー、ゲーム、デジタルシネマ、前面及び背面プロジェクタ、ピコプロジェクター、レーザポインタ ー用のレーザが含まれる。また、商業用プリプレスシステムと写真仕上げ用のレーザに加えて、消費者用及び商業用の従来型のレーザプリンターも含まれる。
  以降のセクションでは、上記の6つの市場分野別に、2020年の分析と2021年の予測について、売上高の推移を示すグラフとともに解説する。
 材料加工と産業用レーザ市場の詳細に つ い て は、Industrial Laser Solutions(ILS)誌4月号掲載予定のデイビ ッド・ベルフォルテ(David Bel forte)の記事「COVID-19 leaves its mark on the industrial laser market」(COVID- 19が産業用レーザ市場に残す爪痕)を参照してほしい。
 米中関係の移り変わりについては、同号掲載予定のボ・グ氏(Bo Gu)による記事「米中のデカップリングは起きるのか」を参照してほしい。
 SPIE Photonics Westにおいて2021年3月4~5日にオンラインで開催された第33回Lasers & Photonics Mar ket- place Seminarでは、最新データと予測を加味したレーザ市場の詳細な分析結果の発表をアレン・ノジーが行った。
 最も包括的なデータと分析結果を示す最終報告書となる、「世界のレーザ市場:市場レビューと予測2020年版」は、2021年4月にLaser Focus World Mar ket Researchから発行される予定である。

レーザ市場分野別分析と予測
アレン・ノジー
(米レーザ・マーケット・リサーチ社[Laser Markets Research]社長)

材料加工とリソグラフィ
 2020年が始まった時、材料加工用レーザ市場は引き続き、米国と中国の間で繰り広げられていた貿易戦争の悪影響を受けていたが、関税が緩和され、解決に向けた協議が進められるにつれて、この問題は徐々に解消されていった。2つめの問題は、中国そのものにあった。すなわち、2019年終盤になって同国の経済成長が鈍化してきたことである。中国は、材料加工用レーザの非常に大きな消費国であるため、これは悪材料でしかなかった。
 しかし結局、そうした問題は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに比べれば、些細な話だった。COVID-19によって、まずは中国で工場が閉鎖し、ロックダウン措置がとられ、中国レーザ企業の2020年第1四半期の売上高は最大で80%減少した。米国と欧州のレーザ企業の影響はそれよりは小さかったが、それでも第1四半期の売上高はある程度落ち込んだ。
 レーザ企業は、この最初の製造停止に続いて、サプライチェーンの問題や出荷の遅延に見舞われたが、総じて既存受注は維持した。それよりも少し懸念されるのは、再び減速することがあれば将来の需要に影響が生じるかもしれないという事実である。しかし、COVID-19のワクチン接種が開始されており、2021年は材料加工用レーザにとって良い一年になると、本誌は楽観的にとらえている。ただし、素晴らしい一年になることはなさそうだ。
 最終的に、材料加工とリソグラフィ用レーザの売上高は2020年に約3%増加したことになるだろうと、本誌は推定している。それは、北米の材料加工用レーザが少し減退したこと、中国の材料加工用レーザ企業が好調な売上高を示したこと、そして、既存の極端紫外線(EUV)レーザ販売に支えられて、レーザリソグラフィ企業がまずまずの業績を上げたことの総合的な結果である。
 2021年については、不透明な部分が多いが、いくつかの部門でやや減少するものの、より平常に近い状態に戻ると考えている。材料加工とリソグラフィ用レーザの売上高は、10%近い成長率を示すと本誌は予測する。その売上高の一部は、2020年に購入されたレーザのうちの遅延分である(図2)。

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図2 材料加工とリソグラフィ

通信と光ストレージ
 通信用レーザ部門は、2019年に売上高がかなり大きく減少した。中国の貿易関税の悪影響を強く受けた業界の1つだったためである。2020年は逆に、COVID-19が実は追い風になった数少ない市場のうちの1つとなった。ここでの重要な要素は、多くの従業員がオフィス勤務から在宅勤務に移行したことである。インターネットや音声通信サービスを提供するプロバイダは、変化する需要に適応しようと、先を争って自社ネットワークのアップグレードに着手した。加えて、在宅勤務する人が増えたことで、日中自宅でスマートフォンを利用する人が増えた。これも、ワイヤレスネットワークのアップデートを促す要因となった。
 通信用レーザの2020年の総売上高は、外出禁止措置がここまで多く発令されなければ、もう少し増加していただろう。外出禁止措置により、多くの国において、サービス担当者は実際に現場に出向いて作業することができなかったためである。
 多くの人々にとって、オフィス勤務から在宅勤務への移行は一時的なものだったが、中には恒久的に在宅勤務に切り替わった人もいる。この状況を踏まえて、多くのサービスプロバイダが自社の展開戦略を見直し、サービスが不十分だった住宅地区のサービス強化に乗り出す可能性がある。それは最終的には、通信用レーザの売上高の増加につながる。
 この市場分野に含まれる、光ストレージ用レーザの売上高は、長期にわたって減少傾向が続いている。COVID-19によって、多くの人々が在宅勤務に移行し、それによって、コンピュータの販売台数は一時的に増加したが、それが最終的に光ストレージ用レーザの売上高に与えた影響は、極めて小さかった(図3)。

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図3 通信と光ストレージ

科学研究と軍用
 研究開発分野における世界レーザ支出もやや増加したが、この部門の2020年の売上高を押し上げたのは、軍用レーザだった。軍用レーザの売上高は前年比で23%以上増加し、2021年も同程度の成長が予測される。この数年間で、米国だけでなくその他の国や地域でも、さらに多くのレーザ兵器を開発する動きが大きく推進され始めている。中国、イスラエル、英国、ドイツ、さらには日本においても、レーザ軍用兵器の開発計画が進行している。
 レーザの軍事利用が最初に検討され始めた20年前、当初の計画は、大陸間弾道ミサイル(Intercontinental Ba­lli­stic Mi­ssile:ICBM)の攻撃に対する保護手段とすることだったが、それは現実的ではないことがその後明らかになった。ドローン、低コストで低能力の脅威の大群、大量の迫撃砲やロケット弾の一斉発射など、今日最大の脅威の多くは、今日のレーザ兵器で完璧に防御することができる。レーザ兵器が消費するのは電力だけで、再装弾は不要であるため、長期的には運用コストが抑えられ、操作に必要な人員も少なくて済む(図4)。

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図4 科学研究と軍用

医療と美容
 すべてのレーザ市場分野の中で、COVID-19の悪影響を最も大きく受けたのが医療用レーザだった。理由はきわめて明白である。パンデミックで医療体制はひっ迫したが、人々は不要不急の医療処置を延期し、歯科、眼科、美容外科の予約をキャンセルした。その状況を受けて医療関係者らは、医療用レーザの購入を延期または中止した。内科や歯科の予約などは一部回復しているが、待機的手術などはまだ回復していない。
 COVID-19が医療用レーザの売上高に与えた好影響が1つあるとすれば、それは、レーザが非接触式で、そのことが長期にわたってメリットになる可能性があるということである。例えば、多くの歯科医が超音波スケーラーを歯のクリーニングに使用している。水流を利用するこの器具は、COVID-19の感染拡大につながる恐れのあるエアロゾルも生成する可能性がある。米バイオレース社(Biolase)は2020年7月に、水流ではなくレーザによって、バクテリアを抑え、歯周病に対処する「Epic Hygiene Laser」を発表した。外科用メスなどの手術器具ではなくレーザによって手術を行うことも、COVID-19によって促進される可能性のある医療用レーザソリューションの一例である。
 歯科用と美容用レーザの2020年の売上高は、ともに前年比で25%以上減少した。眼科用レーザの売上高も前年比で20%近く減少したが、外科用レーザの売上高は2019年と比べて微増した。2021年の医療用レーザ売上高は、2019年をやや下回るレベルにまで回復すると本誌は予測している(図5)。

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図5 医療と美容

計測機器とセンサ
 計測機器とセンサは、レーザ市場分野として規模が非常に大きいわけではないが、近年かなり力強く成長している分野である。この分野には、分光法やフローサイトメトリー(flow cyto­me­try:流量血球計算)用のレーザ、ライダ用のレーザ、その他の3Dセンシング用にスマートフォンに搭載されるレーザが含まれる。これらの応用分野のうち、スマートフォンに搭載される3Dセンシングの成長が最も著しく、この分野はCOVID-19の影響を全く受けていないように見える。
 本誌が調査した9つのサブセグメントのうち、3Dセンシング用レーザの売上高は、第2位のサブセグメントであるフローサイトメトリーの5倍近くにものぼり、この市場分野の売上高のほぼ60%を占めている。3Dセンシングがこれほどまでに急速に大きく成長した理由は、スマートフォンの一言に尽きる。
 3Dセンシングのブームを巻き起こしたのは、米アップル社(Apple)だといってほぼ間違いない。同社が2017年に、「Face ID」を「iPhone X」に搭載したのが発端である。他のスマートフォンには長年にわたり、顔までの距離の検出とカメラのオートフォーカスにレーザセンサが採用されていた。アップル社がスマートフォンにFace IDを搭載すると、瞬く間に「Android」や中国メーカーのスマートフォンにもこの機能が搭載されるようになった。しかしアップル社はそこで終わることなく、「iPhone 12 Pro」には背面カメラにライダユニットを搭載した。これを受けて、あらゆる種類のスマートフォンに、ますます多くの3Dレーザセンサが搭載されるようになっている。3Dレーザセンサは安価で、数多くのアプリケーションを可能にするため、まさに消費者が望むものである。スマートフォンの年間販売台数は約15億台にものぼるため、このレーザの売上高も急激に増加している。
 3Dセンシング以外のレーザセンシング分野も成長し続けている。これにはライダやフローサイトメトリーの他、さまざまな形態の分光法が含まれる。短期的には、これらの技術に対して販売されるレーザの売上高の伸びに、COVID-19による鈍化は見られないが、COVID-19によって景気が後退することになれば、鈍化する恐れがある(図6)。

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図6 計測機器とセンサ

エンタテインメント、
ディスプレイ、印刷
 エンタテインメント、ディスプレイ、印刷用のレーザは、本誌が調査する市場分野の中で最も売上高が小さい分野の1つだが、デジタルシネマ用のレーザは、ディスプレイ部門の中で最も大きなサブセグメントである。COVID- 19を理由に、レーザシネマプロジェクターの多くの注文が保留されている状態にあるが、2021年半ばまでにはいくらかの回復が見られるのではないかと本誌は期待している。
 レーザライトショーとオフィス用レーザプロジェクターも、COVID-19の影響を受けて減少した。オフィス会議は、「Zoom」によるビデオ会議にほぼ置き換えられている。一方、プラス面としては、在宅時間が増えたことで、家庭用のレーザプロジェクションTVの販売が増加する可能性がある。COVID-19による生活様式の変化はまだ初期段階にあるため、より多くのデータが蓄積されてからの最新情報に期待したい(図7)。

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図7 エンタテインメント、ディスプレイ、印刷