January, 20, 2023--マーカス・ルーテリング
より高い出力によって、新しい応用分野における接合加工を最適化する。
レーザが産業用金属加工の溶接処理に適していることは、これまでに繰り返し実証されている。半導体レーザは、溶融池の卓越した安定性が特に素晴らしく、それは、より品質の高い溶接シームにつながる。しかし、金、銅、銅合金などの非鉄金属を加工する場合、波長が900〜1100nmの範囲の近赤外( NIR )レーザは、たびたび限界に達してしまう。その理由は、非鉄金属におけるNIR 光の吸収率が低いことにある。その結果、部品の溶融には、高いエネルギー入力が一般的に必要になる。そのために、溶融処理は不安定になる場合が多く、それは、溶接欠陥、スパッタの形成、製造工程不良品につながる恐れがある。
銅加工を複雑にする高い反射率
赤外レーザは銅溶接に対して、部分的にしか適していない。銅は室温において、NIR 光の最大95% を反射するためだ。これは、レーザエネルギー入力のうち、溶融に使われるのはわずか20分の1 で、製造プロセスのエネルギーと二酸化炭素(CO2 )のバランスに対して、非常に大きな悪影響を与えることを意味する。銅は、自動車業界の
電動モーターの製造などに使用する場合に、卓越した導電性を示すことから、ますます重要な材料となっている。そのため、産業ユーザーやレーザメーカーは、銅部品をレーザ溶接するための新しいソリューションを見出そうと懸命に取り組んでいる。
製造プロセスの最適化
ソリューションを見つけたいというその動機が、産業用半導体レーザを専門とする世界的な企業である独レーザーライン社(Laserline)における、波長約450nmの青色半導体レーザの開発につながった。この波長のレーザ光は、室温において約60% が銅に吸収される(図1)。
NIR 光の平均吸収率は約5%であるため、出力が同じ場合で、NIRレーザの12倍のエネルギーで材料を加工できるということになる。その結果、レーザ溶接のエネルギー要件は大幅に低減される。ほぼすべての加工プロセスを、適度な熱入力で実行することができる。
レーザーライン社は2019 年に、世界初の最大出力1kWの青色連続波(CW)半導体レーザ「LDMblue 1000-60」を発表した。この開発は、独連邦教育研究省(Federal Ministory of Education and Research:BMBF)が助成する高出力レーザ研究支援プログラム(Efficient High Power Laser Beam Sources:EffiLAS)の一環として、進められている。わずか1 年後には、1.5kW と2kW の出力が達成された。産業用レーザのLDMblue シリーズは世界で初めて、銅や金などの高反射性金属に対する制御された熱伝導溶接を可能にした。完璧な外観のシームを、材料の表面仕上げとはほぼ関係なく、銅箔や銅板上に生成することができる。これは、特に電気自動車用バッテリーに使われる薄い銅材料の溶接に対して、より効率的な新しい接合ソリューションが利用可能になったことを意味する。
2022年春からは、出力3kW、平均波長445nm、ビーム品質33mm mrad、標準スポット径0.45 〜0.6mm の青色CW 半導体レーザが提供されている。可視波長範囲のレーザについては、25%以上の電気効率が現時点でも達成しているが、この効率は、一部のNIRレーザの電気効率よりも少し低いが、可視波長レーザは、プロセスの全体的なエネルギーバランスに影響を与えない。すなわち3kW の青色半導体レーザは、同じ出力のNIR レーザでは難しい溶接処理に対して、簡単に使用することができる。銅加工に必要な出力がNIR レーザよりも低いため、電気効率が低いにもかかわらず、エネルギーを節約することができる。最終的に決定的因子となるのは、加工効率である。3kW の出力レベルは、銅製ヘアピン材の溶接や、銅粉末を材料とする部品の積層造形といった、新しい応用分野の可能性を切り拓く。
図1 さまざまな材料の室温におけるレーザ光吸収率(1)、(2)。
より大きな表面のヘアピン溶接
小さな銅製ヘアピン材の溶接は、1.5kW の青色半導体レーザによって2021年に既に可能となっている。約5mm2 の面積を200ms 未満の速度で溶接したり、約2.25mm2 のヘアピン材を65ms 未満の速度で溶接したりすることが可能となっている。適度な強度とスポット径1mm の溶接プロセスによって、スパッタを生じることなく、非常に滑らかで均質な溶接部が得られている。
3kW のレーザにより、サイズの制約なくヘアピン溶接を行うことが可能になった。この半導体レーザにより、サイズが4、10、15、さらには20mm2 の2 本の同一のヘアピン材を、20 〜270ms の速度で溶接できることが、徹底的な試験によって実証されている(図2)。また、断面画像の解析によって、シームのポロシティ(気孔率)が顕著に低く、高い導電性と安定性が約束されることも示されている。この新しい3kW 半導体レーザは、ギャップ(隙間)、向きのずれ、高さの違い、横方向の変位があっても、優れた接点を生成する。また、接合部に600μm の隙間が生じる不揃いなピンに対して、ジグザグや楕円形の動きパターンを生成するためにスキャナを挿入するなどのプロセス最適化は、不要である。
図2 断面積がそれぞれ9.9mm2 の銅製ヘアピン材を、約250ms で溶接した様子。
溶接、肉盛り、積層造形
銅に対するオーバーラップ溶接、フィレット溶接、バット溶接といった溶接処理も、3kW の青色半導体レーザを使用することによって、確実に行うことができる。2.9kW のレーザ出力によるオーバーラップ溶接では、重ねた1.2 × 1.2mm の厚さの銅板に対して、毎分2.4m の速度と84%の溶接溶け込み深さが達成されている(図3)。
銅部品の積層造形においても、出力が3kW に増加したことによって、興味深い新たな選択肢が切り拓かれている。レーザーライン社は、展示会LASER World of PHOTONICS 2022に、800W の青色半導体レーザを粉末材料に適用して製造した、銅管のサンプルを出展した(図4)。
3kW のレーザ出力により、銅製の大型量産部品のさらに効率的な積層造形が、将来的に可能となる。2つの異なる材料からなる部品に対しては、特に高い関心が寄せられている。過酷な産業用途に耐えられるように外殻は工具鋼で製造しつつ、部品内の効率的な冷却を可能にするために銅材料が使用される場合が多いためである。NIR レーザでは、一方の加工しかできないのに対し、青色半導体レーザは、どちらの材料も適切に加工することができる。また、3kW の青色半導体レーザを使用すれば、銅の肉盛り溶接において、格段に高い面積速度が得られる。
図3 3kW の青色半導体レーザによる、2 × 1.2mm の厚さのオーバーラップ溶接。
図4 青色半導体レーザを使用した、銅粉末を材料とする指向性エネルギー堆積方式の積層造形。
よりシンプルなプロセスで、より高品質な結果を
新しい3kWの半導体レーザは、多用途に対応するだけでなく、製造プロセスも簡素化する。アルゴンやヘリウムなどのシールドガスの使用は不要であるため、製造コストは低下する。また、青色レーザは確実かつ安全に溶接を行うことができるため、溶接処理の前の位置決めを行うための光学制御システムとそれに伴う照明も不要である。必要に応じて、このビーム源を、プロセス監視用の一般的なシステムや、光干渉断層撮影(Optical Coherence Tomography:OCT )システムに組み合わせることができる(図5)。特定の用途に対して最大限の柔軟性を得るために、個々のビームをシェーピングすることも可能である。
図5 電気コイルの銅接続部を、ビジョンシステムなしで溶接した様子。
今後の展望:さらに高いレーザ出力とスポットインスポット加工
金や銅などの高反射性金属に対して、青色半導体レーザは、全般的に幅広い種類の新しい可能性をもたらした。出力が3kW に増加したことで、さらなる応用分野が切り拓かれている。接合や肉盛り加工では、はるかに高い溶接速度と溶着速度を達成することができる。また、銅製ヘアピン材などの導電体の深溶け込み溶接では、より大きな断面積を確実に処理できるようになった。大型銅部品の銅メッキや積層造形の効率も、著しく向上している。
3kWの出力を達成したが、当然ながらこれが、このレーザ開発の最終目標というわけではない。将来的には、これよりもはるかに高い出力が達成される見込みである。現在は、幅の広い隙間を埋めるためのNIR レーザ溶接として知られる、スポットインスポット技術を、青色半導体レーザで実現するための試験が行われている。
参考文献
(1) M. Hummel, C. Schöler, A. Häusler, A.Gillner, and R. Poprawe, J. Adv. Joining Proc., 1 , 1 0 0 0 1 2 ( 2 0 2 0 ); https://doi.org/10.1016/j.jajp.2020.100012.
(2) E. W. Spisz, A. J. Weigand, R. L.Bowman, and J. R. Jack, NASA Technical Note TN-5353( 1969).
著者紹介
マーカス・ルーテリングはレーザーライン社ののセールス ディレクター。
e-mail: markus.ruetering@laserline.com
URL:www.laserline.com