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PSI、市販カメラを使ってテラヘルツ光を可視化

November, 17, 2015, Villigen--ポール・シェラーインスティテュート(PSI)の研究グループは、市販のカメラを使ってテラヘルツ光を可視化することに成功した。
 これにより、解像度を25倍にしながら、今日利用できる手段に対してローコストの代替ソリューションを実現することができる。テラヘルツ光の特性によって、安全技術から医療診断まで多くのアプリケーションでメリットが得られる。PSIでは、これをX線自由電子レーザSwissFELでの実験に利用する。PSIが開発したテラヘルツレーザは、現在世界最高強度のテラヘルツ光源。
 セキュリティコントロールから腫瘍の発見まで、隠れた構造を明らかにしたいなら、テラヘルツ光は潜在力がある方法である。紙、プラスチック、布地を簡単に透過し、その背後に隠れているものが何であっても可視化する。生体組織での浸透度はわずか数㎜であるが、医療診断には特に興味深い特性がある。X線などの照射と違い、テラヘルツ光は組織に損傷を与えない。
 テラヘルツ光が無害である理由は、構成する粒子(フォトン)のエネルギーが相対的に低いからである。この特性は研究では有利である。誘因の痕跡を残すことなくプロセスを引き起こすためにテラヘルツ光が役立つ。例えば、磁気データストレージ用の新材料研究では、テラヘルツ閃光を使って研究している材料の磁化を瞬時に変えたり、光学特性を変えたりできる。
 テラヘルツ光のこの特性は非常に実用的であるが、それは特に、ほとんど問題を起こすことがないテラヘルツ光の低フォトンエネルギーである。最近まで、ボロメータを使ってしかテラヘルツ光を可視化できなかった。このようなセンサは高価であるばかりか、環境、特に熱の影響を非常に受けやすい。センサに手を近づけすぎるだけで結果を変えることができる。加えて、達成可能な画像分解能は比較的低い。
 同様に、CCDセンサは研究分野に普及しており、スマートフォンやビデオカメラにも組み込まれて鮮明な画像を提供しているが、これまではテラヘルツ光には使用できなかった。テラヘルツ光はCCDセンサには弱すぎて、CCDセンサはテラヘルツ光に反応しなかったからである。
 PSIが開発した強化版テラヘルツレーザにより、PSIの研究チームはCCDセンサの感度しきい値を克服することに成功した。「過去に入手できたテラヘルツレーザ光源とは違い、PSIが開発したテラヘルツレーザは、非常に高強度であることが特徴となっている」とChristoph Hauriは説明している。
 研究チームは、市販のCCDセンサを使い、PSIで作製した高強度テラヘルツ光が可視化できることを実験的に示した。「テラヘルツ光が通常のCCDセンサで可視化できるほどに強度があるので、ボロメータよりも25倍の解像度で画像を取得している。CCDセンサのピクセルサイズは、ボロメータのわずか1/5程度である」と実験を行ったMostafa Shalabyは説明している。CCDセンサが利用できるようになったことから、別のメリットも出てきている。つまり、熱のような環境の影響が無視できることである。
 強いPSIテラヘルツレーザは、特にSwissFELの今後のアプリケーション向けに開発された。X線自由電子レーザ、SwissFELは現在PSIで建設中であり、2016年末稼働予定となっている。SwissFELは、レーザ特性を持つX線光パルスを生成する。CCDセンサを使ってテラヘルツ光を可視化できるようになったことで、多くの利点が得られる。テラヘルツレーザはSwissFELのX線光と組み合わせて利用されるが、たとえば、磁気データストレージの新材料研究を行う場合、テラヘルツレーザパルスが、研究対象の材料サンプルの磁気変化を誘起する。するとSwissFELのX線レーザパルスが、わずか数フェムト秒後にサンプルを可視化する。これによって、その数フェムト秒のうちにサンプルに起こったことを見極めることができる。
 研究チームは、CCDセンサが実験環境でテラヘルツ光を可視化できることに特に関心を示している。つまり、実験中のテラヘルツビームの正確な空間的位置を記録できる。CCDのフレッシュレートは、SwissFELの実験で起こるスピードに十分ついて行ける。SwissFELは1秒に100X線パルスを放出し、そのパルスの各々で別の実験が行える。
 研究チームは、CCDセンサでテラヘルツ光の可視化が原理的に機能することを示したので、目標はこの考えをさらに発展させることである。Hauri氏は、「CCDセンサの性能は優れているが、それだけではなくボロメータのコストの1/10以下であるので、CCDセンサが急成長する科学のテラヘルツ分野で急速に足場を固めることは確実である」とコメントしている。
 PSIが開発したテラヘルツレーザは、強い赤外レーザを用いてDASTという食塩結晶を照射することで高強度を達成している。これによって異なる周波数の混合からテラヘルツ光が生成する。PSIが用いた方法は、他の方法と比べて10倍の光をテラヘルツ光に変換する。強度の秘密はここにある。また、そのレーザは室温で動作する。
 ボロメータの解像度は、ピクセルサイズ23.5µm、320×240ピクセルでは比較的低い。
 実験で使用した CCDセンサは解像度1360×1024ピクセル。ピクセルサイズは4.65µmだった。その結果、画像はボロメータを使用して生成したものよりも著しく鮮明であった。
(詳細は、www.psi.ch)