June, 12, 2015, 東京--理化学研究所(理研)理論科学研究推進グループ階層縦断型基礎物理学研究チームの瀧雅人研究員と東京工業大学量子ナノエレクトロニクス研究センターの雨宮智宏助教と荒井滋久教授らとの共同研究チームは、非対称な光学迷彩を設計する理論を構築した。
光学迷彩は、光を自在に曲げる装置を設計、開発することで、物体や人を光学的に見えなくする技術。これまで様々な理論的提唱や実験的な確認がなされてきたが、光学迷彩装置は向かってくる光を迂回させることで、装置自体を見えなくしている。したがって、装置内に入射する光がなく、装置内からは外部を見ることができなかった。このように、これまでの原理では外部からも内部からも見えないという“対称的”な振る舞いを示す光学迷彩装置しか作ることができなかった。
共同研究チームは、光に仮想的にクーロン力とローレンツ力を働かせる光学迷彩装置を提唱し、それにより光がその進行方向に対して非対称になっているような状況を理論的に実現した。フレミングの左手の法則からわかるように、磁場が電子に及ぼす力の向きは、電子の進行方向を反転させることにより逆向きとなる。同様の働きをする力を、光に仮想的に作用させることのできる光学迷彩装置を設計。それにより逆方向から入射した光が、全く異なる曲がった光路をたどることができるようになった。この理論は、外部からは見えないが、内部からは外部を見ることができる、“非対称”な光学迷彩を可能にする。
研究チームは、光に作用する「仮想的な電磁気力の理論(有効電磁場)」を用いることで非対称光学迷彩を設計する理論を構築した。この基礎となった理論は2012年にスタンフォード大学のグループが提唱した「光子に作用するローレンツ力」の概念。彼らは、光を捕捉する光学的な共振器[4]を格子状に配置し、その共振器間を光が曲がりながら伝搬する理論モデルを考えた。
研究チームは、この格子共振器のアイデアが光学迷彩装置にも活用できる点に着目し、格子共振器を拡張し電場に相当する効果を発生させる、光学格子共振器を用いた理論モデル(光学格子共振器モデル)を構築した。その結果、光があたかも一般的な電磁場中を運動する電子のように振る舞うことで、光学格子共振器のパラメータを調整するだけでかなり自由な伝搬光路を実現できることがわかった。特に磁場が及ぼすローレンツ力により、完全反対称な光路を実現できる。また、電場から受けるクーロン力に相当する力により光路を調整することで、より多様で非対称な光の伝搬経路が実現できることが分かった。このように光学格子共振器モデルは、光学迷彩の設計において新たな方向性を与えている。
光学格子共振器モデルは、フォトニック結晶を用いた非対称光学迷彩を実現に近づける理論。また、非対称な光学迷彩という研究テーマは、まったく新たなメタマテリアルの開発をも促している。理論とメタマテリアル開発双方の進展により、非対称光学迷彩の構築が可能になることが期待できる。