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NICT、蛍光顕微鏡の観察精度を高める技術で生きた細胞の内部構造がより鮮明に

March, 24, 2026, 東京--情報通信研究機構(NICT)未来ICT研究所バイオICT研究室の松田厚志研究マネージャらによる研究グループは、京都大学及び宇都宮大学と共に、バイオ研究の基盤技術である蛍光顕微鏡による観察精度を高める技術を開発した。

生きた細胞の内部は光の通り方が場所ごとに違い、顕微鏡画像がにじんだり暗くなったり光学的にゆがんで、本来の姿が見えにくくなることが課題だった。研究グループは、天文学で用いられる補償光学と同様な補正を行うことができる計算方法を発見し、撮影後の画像をコンピュータ処理で自動で鮮明化する新手法「øCAO(ファイカオ)」を開発した。高価な装置改造や学習用データは不要で、既存の蛍光顕微鏡でも利用でき、生きた細胞の内部構造や細胞組織の深部をより鮮明に観察できるようになる。さらに、超解像顕微鏡にも適用でき、生命科学の観察精度を一段と高め、病気の理解や創薬研究の効率化などが期待される。

研究成果は、2026年3月9日(月)に、英国科学雑誌「Communications Engineering」に掲載された。

今回の成果
研究グループは、補償光学と同様な補正を行うことができる計算法を発見し、撮影後の画像をコンピュータ上で処理するだけで光学的なにじみやゆがみを自動で取り除き、鮮明さを取り戻す新手法「øCAO(ファイカオ; phi Computational Adaptive Optics)」を開発した。特別なハードウェアの追加などの高価な装置改造なしで使え、厚みのある試料でも細かな構造を見やすくできる。その結果、蛍光顕微鏡では従来は見えにくかった生きた細胞の内部構造や細胞組織の深部をより鮮明に観察できた。
また、近年開発された超解像顕微鏡法では、光の回折限界(光の波長のおよそ半分)より更に小さい構造も観察することができるが、非常に精密な光学系を必要としているため、分解能が大きく低下したり、本来は存在しない模様が出たりするなど、正しい微細構造を観察することが困難だった。研究グループは、øCAOを超解像顕微鏡法の一種である3D構造化照明顕微鏡法(3D-SIM)という方法にも応用し、光の揺らぎで低下してしまった分解能を回復させて、鮮明な画像を得ることを可能にした。

以上の研究開発により、細胞内部の微細構造をより鮮明に観察でき、病気の原因となる細胞内の異常を正確に把握できるため、病気の原因解明や創薬研究の加速、再生医療・バイオ産業の高度化に寄与する。また既存の蛍光顕微鏡の性能を最大限に発揮できるようになるため、研究コストの低減と高度な研究技術の普及にもつながる。

今後の展望
今後は、øCAOを、異なる超解像顕微鏡や更に深部を観察できる2光子顕微鏡などにも応用して、利用範囲を拡大させていく予定。これにより、生物に関わる基礎・応用研究を推進するとともに、生物体の情報を読み出すセンシング技術の精度を更に向上させていく。

(詳細は、https://www.nict.go.jp)