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発光・発電素子の最先端研究
分子科学研究所がフォーラムを開催

February, 24, 2026, 東京-- 

 自然科学研究機構・分子科学研究所(分子研、所長:渡辺芳人氏)が第145回分子科学フォーラム50周年特別版を1月29日(木)に開催した。テーマは「分子を使った光電変換の科学~革新的発光・発電素子の実現に向けて~」で、講師は東京科学大学准教授の伊澤誠一郎氏。
 電気を光として取り出すLEDや有機ELなどの発光素子に加え、光を電気に変換する太陽電池などの発電素子は持続可能社会実現のために非常に重要な役割を担っている。これら光変換素子は、光電変換という共通の原理で動いており、今回のフォーラムでは、この光電変換を分子の力を最大限に発揮して自在にコントロールし、これまでにない革新的な機能をもつ発光・発電素子の開発を目指す伊澤氏の最先端の研究が紹介された。

次の50年へ進む分子研
 分子研は、広く研究者の共同利用に供することを目的に1975年4月に設立された。これまでに様々な物性や機能を有する分子の構造や機能の発現機構、電子状態などの解明を目指す国内外の研究を施設利用や共同研究で支えるとともに、自らも実験と理論の両面から分子科学を先導する研究を推進してきた。
 1982年の極端紫外光実験施設(UVSOR)と1984年の錯体化学実験施設設置によって、ほぼ現在の陣容が整い、2000年には生理学研究所、基礎生物学研究所と共同で統合バイオサイエンスセンター(現・生命創成探究センター)を設置、分子科学の視点から生命科学を研究する領域が新しく加わったことで、その研究対象はより複雑系へと向かうこととなった。
 分子研における研究には、時代を切り拓く先進性が求められており、有機半導体・有機太陽電池、量子ダイナミクス理論、キラルフォトニクス・スピントロニクス、理論と実験による生体分子の構造と作用機序、糖鎖、量子コンピュータ、先進的光電子分光、マイクロ固体フォトニクス、走査型プローブ顕微鏡による界面計測、水中不均一系触媒、カチオン性ハロゲン触媒、結晶スポンジ法など先導的な研究と計測技術の革新的研究が進められている。
 同研究所では、50年の節目を迎え、次の50年の学術研究の進むべき方向を時代の変化とともに見据え、基礎学術研究を牽引する機関として果たすべき役割を常に自問自答しながら、さらに努力を重ねていくとしている。

伊澤氏の最先端研究
 ドナー分子とアクセプター分子の固体界面に励起子が到達すると、電荷分離により自由電荷が生成する。今回の講師を務めた伊澤氏は、有機半導体界面で生じる電荷分離を利用して励起状態のスピンを反転させることで、光アップコンバージョン(UC)という現象が実現できることを初めて明らかにした。UCは太陽電池の効率向上や生体内光治療などへの応用が期待されている。
 開発したのは、2種類の有機分子の界面におけるアップコンバージョン過程を利用したアップコンバージョン有機EL(UC-OLED)。UC-OLEDの発光メカニズムは、まず注入された電子と正孔(ホール)が電子ドナー/アクセプター分子の界面で再結合することで、電荷移動(CT)状態という励起状態が形成される。続いて、CT状態から電子移動が起こり、ドナー層の中で三重項励起状態が励起され、その後二つの三重項状態から、三重項-三重項消滅(TTA)によって高エネルギーの一重項励起状態が生成され、青色の発光が得られる。このメカニズムを用いて、従来素子の約半分の電圧である1.5 V以下で高効率な青色発光を得ることに成功した。
 有機ELは、発光させるために必要な電圧が大きい。このことが、ディスプレイの省エネルギー化に向けた課題になっている。伊澤氏は界面を使った新しい発光原理を実現することで、上述のように乾電池1本につなぐだけで有機ELを発光させることに成功した。世界最小の電圧で光る有機ELだ。
 一方、UC-OLED内部の電子移動反応の詳細はこれまで明らかにされておらず、高効率化のための材料選択の指針が求められていた。伊澤氏は、45通りの材料の組み合わせを用いてUC-OLED内部の電子移動反応を解析、分子間CT相互作用が強く、かつ電子移動の駆動力が小さい組み合わせにおいて電子移動が促進されることを見出した。この研究成果は、超低電圧青色有機ELだけでなく、類似のメカニズムを利用する光アップコンバージョンの材料選択の指針になる。
 UC-OLEDのさらなる高効率化では、発電プロセスにおいて特に重要となるドナー分子とアクセプター分子の界面で起こる電荷分離のメカニズムの解明が重要。素子内部での電子移動の詳細な解析と材料の選択指針が求められ、またUC-OLEDにおいて中心的な役割を担うCT状態は、光アップコンバージョンや有機太陽電池においても重要な中間体となるので、CT状態ダイナミクスの理解は、これら有機光デバイスの包括的な理解にもつながる。
 伊澤氏は、UC-OLEDの系において、前述したように45通りの材料の組み合わせを用いて、CT状態からドナー分子のT1へのCT→T1電子移動反応を系統的に解析した。その結果、効率的なCT→T1電子移動を達成するには、分子間CT相互作用が強く、かつドナーの三重項エネルギーとCT状態エネルギーが近い(電子移動の駆動力が小さい)材料の組み合わせを用いることが重要だということを明らかにした。
 講演の中では、太陽の下で発電し自らが発電するエネルギーで自分自身が光ることのできる有機太陽電池の研究も紹介された。漏れ(熱失活)の少ない有機太陽電池が実現できれば理論限界に近い、高い電圧を出す太陽電池を作ることもできるという。可視光吸収が少ない分子(紫外吸収ドナーと近赤外吸収アクセプター)の組み合わせで、ほぼ透明な太陽電池も実現できるとのことだ。将来的には、透明な窓がディスプレイになったり発電したり、またスマホ画面で自らが太陽光発電できるデバイスも実現できるかもしれない。
 伊澤氏は、研究で得られた知見をもとに新しい材料探索を行い、大幅な消費電力低減を実現したいと、抱負を述べている。
(川尻 多加志)