December, 1, 2025, 東京--東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻の相馬豪 大学院生(研究当時)、種村拓夫 教授、中野義昭 教授(研究当時)、竹中 充 教授らのグループは、光学メタサーフェスと超高速光検出器を一つのチップに集積した多機能光受信器の実証に成功した。
約0.5 mm厚の石英ガラス基板の両面にシリコン(Si)微細構造からなる光学メタサーフェスと化合物半導体(InGaAs)薄膜からなる光検出器アレイを集積することで、高速な光信号を偏波や複素振幅の成分毎に分離して受信できることを初めて実証した。従来の光通信用受信器と異なり、高密度2次元並列化が可能であるため、チップ間光配線、自由空間光通信、大容量空間分割多重光通信、光コンピューティングなどさまざまな応用が期待される。
発表内容
光学メタサーフェスは、光の波長よりも小さな構造体(メタアトム)を高密度に平面上に配置した光学素子であり、透過光の波面を自在に制御することができる。従来の光学部品に比べて薄くて軽いため、平面型のレンズ(メタレンズ)や顔認証センサ用ドットプロジェクタなど、イメージング・センシング分野を中心に近年急速に実用化が進んでいる。
一方、メタサーフェスに高速な光検出器を組み合わせた光通信用受信器への応用も検討されてきたが、これまではメタサーフェスと光検出器が一体化しておらず、受信器全体として見ると大型になってしまっていた。
これに対して研究では、メタサーフェスと超高速光検出器を一つのチップに集積した新しい光デバイスプラットフォームを開発し、多様な光信号方式に対応した超小型かつ高速な光受信器の実証に成功した。
約0.5 mm厚の石英ガラス基板に厚み1 µm以下のInGaAs薄膜受光層を貼り合わせることで、70 GHz以上の帯域を持つ超高速な光検出器を実装した。その上で、入力光信号の各偏波・複素振幅成分が所望の光検出器に集光されるように最適設計したメタサーフェスを反対側の面に形成した。これにより、単一の光検出器にメタレンズを集積した受信器(ML+PD)やこれをアレイ化した多チャンネル受信器(ML+PDA)に加えて、偏波成分を分離して受信するストークスベクトル受信器(SVR)、複素振幅の実部と虚部の成分を分離して受信するコヒーレント受信器(CR)など、合計94個の受信器を1.2 cm角のチップに搭載した。
4チャンネル受信器(ML+PDA)とストークスベクトル受信器(SVR)部の顕微鏡写真と実験結果の一例。それぞれの構成により、320 Gbps 4値パルス振幅変調(PAM4)信号、および240 Gbps 64値直交振幅変調(64QAM)信号の受信に成功した。
今回実証した素子は、従来の導波路型の光受信器と異なり面入射型であるため、2次元並列化が容易であり、多チャンネル受信器への展開が可能。次世代の高密度チップ間光配線や大容量光通信をはじめ、高速イメージングや光コンピューティングなど、幅広い分野への応用が期待される。
(詳細は、https://www.t.u-tokyo.ac.jp)