September, 10, 2025, 東京/横浜--東京大学大学院新領域創成科学研究科の伊藤雅聡大学院生(研究当時)、同大学物性研究所の藤野智子助教(研究当時、現:同研究所 リサーチフェロー、横浜国立大学 准教授、科学技術振興機構 さきがけ研究者)、森初果教授、産業技術総合研究所の東野寿樹主任研究員、東京理科大学の菱田真史准教授の研究チームは、独自に開発した単一のアンバイポーラ(両極性)分子半導体において、正の電荷を持つ「正孔」と負の電荷を持つ「電子」がそれぞれ全く異なる方向に流れやすい性質(キャリア特異的輸送異方性(注3))を持つことを見出した。これは、単一分子半導体材料を用いた有機電界効果トランジスタ(OFET: Organic Field-Effect Transistor)における初の実証である。
研究チームは、独自に開発した空気中で安定なニッケルジチオレン化合物「Ni(4OPr);を用いてOFET素子を作製し、その特性を解析した。その結果、まるで正孔は「一方通行路」を、電子は「全方向通行可能な広場」を進むかのように、両者が全く異なる「交通ルール」に従うことを実験的に証明した。さらに、この異方性の起源が、分子間での軌道の相互作用の違いにあることを明らかにした。この発見は、正孔と電子の両方を流せるアンバイポーラ分子半導体における電荷輸送の理解を飛躍的に深めるものである。
この成果は、分子軌道レベルの相互作用の違いが、デバイスとしてのマクロな特性に直接現れることを明確に示したものである。従来の単一材料では実現されなかったキャリアごとの流路方向制御を可能とする、高性能な電子デバイス開発に向けた新たな材料設計指針を提示する。
発表のポイント
・独自に開発した単一の分子半導体材料において、従来は実現できなかったキャリア特異的輸送異方性(正孔と電子がそれぞれ異なる方向に流れやすい性質)を実証。
・この性質の違いが、電荷輸送を担う分子軌道の相互作用の仕方の違いに起因することを解明。
・電荷の種類に応じて輸送特性を自在に制御できる高機能分子半導体の設計に道を開き、単一材料でキャリアごとの流路方向を調節可能とすることで、次世代電子デバイス開発の加速に貢献。
(詳細は、https://www.issp.u-tokyo.ac.jp)