September, 8, 2025, 和光--理化学研究所(理研)光量子工学研究センター 量子オプトエレクトロニクス研究チームの加藤雄一郎 チームディレクター(開拓研究所 加藤ナノ量子フォトニクス研究室 主任研究員)、小澤大知 研究員(研究当時、現客員研究員)、開拓研究本部 加藤ナノ量子フォトニクス研究室の塩田勇人 研修生(研究当時)らの研究チームは、カーボンナノチューブ上に狙った数・位置・波長の量子欠陥を導入する「決定論的単一分子修飾法」を開発した。
この研究成果は、カーボンナノチューブの量子欠陥は室温で通信波長帯の単一光子を放出する量子光源として機能するため、室温かつ通信波長帯で動作する量子光源を構成要素とした次世代の量子通信デバイスの創成を加速すると期待される。
カーボンナノチューブは、室温でも安定した単一光子放出が可能であり、量子欠陥からの発光波長を光通信に使われている近赤外光領域(波長1,200~1,600nm)に調節できることから、量子通信技術の単一光子源の理想的な材料として注目されている。しかし、従来の方法にて、カーボンナノチューブに量子光源となる量子欠陥を形成する場合には、カーボンナノチューブ内の量子欠陥の数や位置、波長を制御することができなかった。
今回、研究チームが開発した「決定論的単一分子修飾法」により、カーボンナノチューブ内の量子欠陥の作成において、(1)量子欠陥の数を一つに限定、(2)位置をサブミクロン(1マイクロメートル(μm、1μmは100万分の1メートル)以下)精度で制御、(3)カーボンナノチューブの構造選択により発光波長を調整、という三つの精密制御を同時に実現することに成功した。
研究成果は、科学雑誌『Nano Letters』オンライン版(8月21日付)に掲載された。
発表者のコメント
今回の成果では、原子レベルで構造を特定したカーボンナノチューブに対し、決定論的に分子を一つだけ化学反応させることに成功した。ナノテクノロジーを超えた原子精度技術に向けた画期的な進展で、物理学と化学の融合に基づく新たな研究分野の開拓にもつながる。(加藤 雄一郎)
量子通信の実用化に必要な単一光子源を、狙い通りにつくれるようになった。これまで運任せだった量子材料の作製が、ついに設計可能になった。これは量子技術の産業応用に向けた重要な一歩である。(小澤 大知)
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