September, 3, 2025, 東京--東京農工大学などの研究グループは、ウイルスと複合体を形成する光応答性ファイバの開発に成功した。
ウイルスは構造的周期性と表面設計可能性を特徴とする多様な形態を有するため、近年バイオマテリアルを設計する上で有用なモチーフとなっている。特に、ウイルスとポリマの複合体は、遺伝子治療用の薬物キャリアや電子デバイス構築するためのビルディングブロックとして注目されている。
研究では光応答性のアゾベンゼン部位が導入された自己集合性ペプチド(A2Az)を開発した。A2Azは、水中で螺旋状の超分子ファイバへと自己集合し、ヒドロゲルを形成する。研究チームは、A2Azファイバが、その特徴的な螺旋構造の効果により、ウイルスと強く相互作用して複合体を形成することを見出した。
また、A2Azファイバは、アゾベンゼン部位の光異性化により分解する。研究チームは、この光に応答した分解によって、A2Azと複合化したウイルスを系中に放出することを達成した。これにより、光を利用した位置選択的な複合体の分解が、二次元基盤上でのウイルスパターニングと、三次元ゲル中での空間選択的ウイルス感染の制御を可能にすることを明らかにした。ウイルス/ポリマ複合体を用いた空間選択的なウイルスの固定と放出、ひいては感染制御に初めて成功した点が、この研究が達成したブレークスルーである。この成果は、ウイルスの高度な操作を可能にする基盤技術として学術的な意義があり、遺伝子治療や光学材料の設計など、ウイルスが関連する幅広い分野へ波及し、新材料の開発や応用研究につながると期待される。
研究グループ
東京農工大学大学院工学研究院の矢口敦也(博士後期課程修了)、同大学工学部Chinbat Enkhzaya (学部卒業)、井谷駿斗(博士前期課程修了)、齋藤智一(博士前期課程修了)、同大学大学院工学研究院応用化学部門の内田紀之特任講師、村岡貴博教授、東京科学大学国際医工共創研究院脳統合機能研究センターの味岡逸樹教授、北里大学大学院理学研究科の三浦大輝(修士課程修了)、同大学未来工学部の渡辺豪教授、国立陽明交通大学の平松弘嗣副教授、慶應義塾大学理工学部の松原輝彦准教授、佐藤智典名誉教授
(詳細は、https://www.tuat.ac.jp)