August, 26, 2025, 大阪--大阪大学大学院基礎工学研究科の木須孝幸准教授、水上昂紀(博士後期課程)、関山明教授らの研究グループは、同研究科の石渡晋太郎教授、東京大学大学院工学系研究科 宮川和也助教、同大学大学院新領域創成科学研究科 鹿野田一司特任研究員らとの共同研究により、光電子分光によって分子性導体の超伝導状態の電子を直接捉えることに世界で初めて成功した。
これまで、電子状態を直接観測できる光電子分光法による分子性導体の電子構造の研究は、励起光によるラディエーションダメージ(照射損傷)が大きいことからほとんど行われていなかった。今回、研究グループは、低エネルギーレーザを励起光として用いる光電子分光装置を開発し、分子性導体における超伝導ギャップを明瞭に観測することに成功した。
今回の手法によって、分子性導体の電子構造について直接的な知見が得られるようになることで、Society 5.0の実現に向けた、分子性導体を利用した新規物性デバイス材料開拓研究の加速が大いに期待できる。
研究の内容
研究グループは、ラディエーションダメージが小さい6 eVのレーザを励起光とした分子性導体研究に適した光電子分光装置を開発し、適切な冷却プロセス・蓄積されたノウハウに基づいた表面処理を行った。そうすることで、分子性超伝導体κ-(BEDT-TTF)₂Cu(NCS)₂の常伝導状態におけるフェルミ端と超伝導状態における超伝導ギャップの直接観測に初めて成功した。さらに数値解析により、本物質の超伝導ギャップは銅酸化物高温超伝導体と類似したd波の対称性を持っていることを示した。この、これまで不可能だった「光電子分光によって分子性導体の超伝導ギャップを見る」事に成功したことは、今後の分子性導体の研究において光電子分光が重要な役割を果たせることを示している。
この研究成果が社会に与える影響(研究成果の意義)
この研究成果により、光電子分光によって分子性導体の電子状態を直接知ることが可能になったため、分子性導体の電子物性研究が加速することが期待される。また、それに伴って将来の分子性導体を用いた次世代材料開発への応用も期待でき、持続可能な社会の実現に貢献することができる。
本研究成果は、2025年6月6日に、日本物理学会が発行する英文誌Journal of the Physical Society of Japan (JPSJ)の2025年6月号に注目論文(Editors’ Choice)として電子版で掲載された。