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量子通信の安全性と量子計算の信頼性を確立する“光子のものさし”

August, 20, 2025, つくば--産業技術総合研究所(産総研)物理計測標準研究部門 上土井猛 リサーチアシスタント(研究当時)、福田大治 首席研究員、量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT) 鶴田哲也 研究員は、光通信で使われる1530 nmから1565 nmの波長帯であるC-bandと呼ばれる波長帯の波長に対応し、1光子単位で正確に出力を制御できる波長可変の光源を開発した。

光子は光(電磁波)の最小単位であり、電子やクォークなどと並ぶ素粒子の一つ。この光子を精密に制御することで、量子通信や量子コンピュータといった最先端の情報通信技術を実現できると期待されている。そのためには、光通信に用いる波長帯域の微弱な光を1光子単位で精密に検出する必要がある。しかし、光源から出力された光子数のうち、光子検出器がどの程度の割合の光子数を正確に計測できているかをC-band全域で正しく評価することは未解決の課題だった。なぜなら、波長に依存する光子検出器の性能を評価するためには、光通信に用いる波長帯域中のどの波長の光であっても光子検出器に照射する光子数が「正確に〇個」といえるだけの信頼できる光源、波長可変の“光子のものさし”が存在しなかったからである。

研究では、レーザパワーの国家標準にトレーサブルな波長可変光源(標準量子光源)を開発し、それを光子のものさしにすることで、光通信で使われるC-band波長帯の全域の光において光子検出器の性能を高精度に測定する技術を確立した。この技術により、特定の波長のみならずC-band全域にわたり、光センサの信頼性をレーザパワーの国家標準と同水準の精度で担保できるようになることで、量子暗号通信の安全性や光量子コンピュータの精度の向上に貢献できる。

今後の予定
この研究によって、光通信波長帯であるC-band全体にわたり、光子数を正確に定義できる量子光源が実現し、それを基にして光子検出器の厳密な性能評価が可能となった。これは、特定の波長に限らず、幅広い波長にわたる光子を国家標準にトレーサブルに測定可能になったことを意味する。

このような広帯域での測定能力は、量子暗号通信や光量子コンピュータといった先端技術の発展において、今後ますます重要な基盤となっていく。例えば、光量子コンピュータにおいて不可欠なスクイーズド光源では、通常一つの波長だけが利用されているが、実際には広い波長帯域にわたって光子が生成されており、現在その多くは未使用のままである。これらの使われていない波長も正確に測定できるようになれば、波長多重化による並列処理や、量子計算の拡張が可能になる。また、時間的に短いパルスは広い波長成分を含むため、広帯域な波長を検出できる検出器は、より高速な信号の測定に必須である。将来的には高速な演算処理において、今回の技術は不可欠な役割を担う。今後は量子暗号通信や光量子コンピュータと組み合わせた、より実践的な開発を加速させ、来たる量子社会を支える計測技術の礎を築いていく。

この研究成果の詳細は、2025年7月25日に「Optics and Laser Technology」にオンライン掲載された。

(詳細は、https://www.aist.go.jp)