July, 22, 2025, 東京--東京農工大学大学院工学研究院先端電気電子部門の張亜准教授、平川一彦客員教授、工学府電子情報工学専攻博士前期課程の江端一貴、飯森未来、竹内遼太郎、博士後期課程の劉千、趙子豪、中国科学院上海マイクロシステム情報技術研究所の黎華教授、兵庫県立大学の前中一介教授らの共同研究チームは、シリコン素材を用いて室温動作可能であり高速・高感度で広帯域検出可能なテラヘルツMEMSボロメータの開発に成功した。
この成果により、低コストで大量生産が可能で、CMOS回路との集積も容易な次世代テラヘルツ(THz)イメージングや分光技術の実用化が大きく前進すると期待される。
研究成果
光子エネルギーが非常に小さいTHz・赤外領域では、検出器において光を一旦熱に変換し、その温度上昇による抵抗の変化などを信号として用いるボロメータ技術が有効である。研究では、SOI(Silicon On Insulator、絶縁体上のシリコン)で作製された、微小電気機械システム(MEMS)共振器を用いた室温動作・高感度・高速・広帯域THz検出器の開発に成功した。
MEMS梁に入射されたTHzを熱に変換し、MEMS共振器の機械的共振周波数シフトとして検出する。一般に固体の抵抗や誘電率などの物理量は、低温ではわずかな温度変化でも大きく変化するが、室温での変化は非常に小さい。それに対して、機械的な共振は室温付近でも熱膨張の効果により、温度変化に対して直線的に応答する。この特性を利用することで、開発したSOI MEMS検出器は、ノイズ等価電力NEPが約36 pW/√Hzの高感度、熱応答時間約88マイクロ秒の高速応答を実現した。このことは、従来から広く赤外検出器として用いられてきた焦電検出器の約100~1,000倍の応答速度が得られ、高速なTHz・赤外計測に適している。さらに、1~10 THzの広い周波数帯で平坦な感度スペクトルを示し、近赤外領域までの拡張も可能であることから、分光など広帯域計測への応用にも適している。
今後の展開
今後は、このSOI MEMS検出器の実用化に向けて、実際の応用環境での性能検証を進める。また、大規模な検出器アレイとしての実用化を目指す。さらに、ナノスケールへの小型化により感度と速度を飛躍的に向上させることで、究極的な検出感度の実現を目指す。
研究成果は、Microsystems & Nanoengineering(7月7日付)に掲載された。
論文タイトル:Uncooled, broadband terahertz bolometers using SOI MEMS beam resonators with piezoresistive readout
URL:https://www.nature.com/articles/s41378-025-00996-2
(詳細は、https://www.tuat.ac.jp)