March, 9, 2015, Minneapolis--ミネソタ大学の研究チームは、極薄(20nm)黒リンを使ってナノスケール光回路で高速通信を実証した。デバイスは、グラフェンを使った同等のデバイスに対して大きな効率的進歩を実証した。
コンシューマがより高速で小型の電子デバイスを欲しがるのでエレクトロニクスメーカーは1個のチップに詰め込むプロセッサコアの数を増やしているが、これらのプロセッサの全てを相互に通信させることが開発者にとって主要課題になっていた。目標は、光を使った高速のオンチップ通信を可能にする材料を見つけること。
黒リンの存在は1世紀以上前から知られていたが、半導体としての可能性があることが分かったのは過去1年のことだった。その特異的な性質のために、黒リンは非常に効果的な光検出に使用でき、光アプリケーションで価値があると見なされている。ミネソタ大学の研究チームが初めてシリコンに複雑な光回路を造り、同大学のナノセンタの設備を使ってこの構造を極薄黒リンで覆った。
研究チームのリーダー、Mo Li教授は、「グラフェンの発見後、新たなオプトエレクトロニック特性を持つ新しい2D材料が相次いで出てきている。これらの材料は2Dなので、フラットな光集積回路を持つチップ上にこれらを置いて光と最大限の相互作用をさせ、その特性を適切に利用することは、極めて当然のことである」と言う。
ミネソタ大学の研究チームは、黒リンフォトディテクタ(PD)のパフォーマンスが、オンチップPDのゴールドスタンダードと見なされているゲルマニウム(Ge)でできた同等のデバイスと正に肩を並べることを実証した。しかし、Geはシリコン光回路上に成長させることが難しいが、黒リンや他の2D材料は分離して成長させ、どんな材料の上にでも移動させることができるので、遙かに多用途に使える。
研究チームは、高速光データをファイバで伝送して、黒リンPDを使ってそれを回復することで、その材料が実際のアプリケーションで使えることを示した。研究グループは、データ速度3Gbpsを確認しており、これは一般的なHD映画を約30秒でダウンロードすることに匹敵する。
論文の筆頭著者、Nathan Youngblood氏は、「このデバイスで、すでに高速動作を実証しているが、さらに最適化を進めることで高速化が可能であると考えている。黒リンを使って高速PDを実証したのはわれわれが初めてであるので、十分に最適化されたデバイスで理論限界を確認するのはさらに先の作業になる」とコメントしている。
バンドギャップをブリッジ
黒リンは、別の2D材料、グラフェンと共通点が多いが、両者は大きな違いがある。最も重要な点は、「バンドギャップ」(エネルギーギャップ)の存在である。
バンドギャップを持つ材料、「半導体」は、特別な材料グループになる。このような材料は、材料内の電子がバンドギャップを「ジャンプ」できるだけのエネルギーを吸収したときにだけ電気を通す。このエネルギーは、熱、光、その他の手段で供給できる。
グラフェンは幅広いアプリケーションで有用であることを照明しているが、主要な欠点はバンドギャップがないことにある。このことは、グラフェンが常に大量の電気を通すことを意味しており、この「漏出」はグラフェンデバイスを非効率にする。基本的に、このデバイスは「オン」になっており、常に電気がリースする。
黒リンは、それに対して、調整範囲が広いバンドギャップを持ち、スタックされるレイヤーの数によって変わる。このことは、黒リンを可視域の光を吸収できるようにも、赤外の光を吸収できるようにも調整できることを意味する。この調整可能性の大きさは、黒リンを特異的な材料にするものであり、このため黒リンは化学センシングから光通信まで、幅広いアプリケーションで使うことができる。
さらに、黒リンはいわゆる「直接バンド」半導体であり、このことは電気信号を効率的に変換して光に戻すことができることを意味する。ハイパフォーマンスフォトディテクション能力と併せると、黒リンは光回路で光を生成するために使えることになり、これはオンチップ光通信のワンストップソリューションともなる。
過去数年、2D材料の発見が相次いだ。最初はグラフェン、最近では二硫化モリブデンのような遷移金属二カルコゲン化物(TDMs)、さらに今度は黒リン。以前の2D材料全てが重大なトレードオフを持っているが、黒リンはチューナブルバンドギャップと高速能力で「同時に両方の最もよいところ」を提供する。