October, 17, 2024, 東京--量子科学技術研究開発機構(QST)量子生命科学研究所の鱧屋隆博博士研究員(現・京都府立医科大学プロジェクト研究員)、神長輝一研究員、今岡達彦チームリーダー、五十嵐龍治グループリーダーらは、ナノ量子センサによって実験用哺乳類体内の細胞の微小領域の温度測定に世界で初めて成功した。
量子センサは、ダイヤモンド結晶中に形成した窒素-空孔中心(NVセンタ)の量子効果を使って、半導体内部など微小な領域の温度等を精密に測定するために利用されている。最近では、ナノサイズの量子センサを細胞内に導入して温度などを計測し細胞の詳細な情報を得るための次世代センシング技術としての開発が進められ、生物学、医学、生命科学への応用が期待されている。
しかし、これまでナノ量子センサを使った計測は培養細胞や取り出した組織などに限定され、哺乳類などの生体内で細胞が働くその瞬間の情報を得ることは、技術的なハードルが高く実現できなかった。
その理由として、哺乳類では注入されたナノ量子センサが全身に拡散してしまうこと、計測に必要な可視光が厚い組織を透過できないこと、呼吸や脈動などの生理現象が測定の邪魔になることが挙げられる。
研究チームは、これらの技術的な困難を克服する手法を開発し、乳がんのリスク因子である乳腺炎を発症したラットの生体内細胞の温度計測に世界で初めて成功した。
この成果により、哺乳類体内で活動する細胞そのままの状態での温度計測が可能になった。また、生体内での計測で問題となる毒性は検出されず、量子センサを生体内にとどめたまま、細胞内の温度変化を数か月に渡って捉えることも原理上可能となった。今後、細胞内の詳細な温度変化と細胞の状態との関係がわかってくれば、ナノ量子センサによる生体内細胞計測は、ガン研究をはじめとした、生物・医学研究に新たな視点をもたらすと期待される。
研究成果は、ナノスケールの革新的科学技術に関する論文が数多く発表されている国際誌Nanoscale Horizonsオンライン掲載された。