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微小光学の基礎と応用を分かりやすく解説
微小光学研究会、セミナーを開催

September, 2, 2024, 東京-- 

 8月5日(月)と8月6日(火)の両日、応用物理学会・微小光学研究会(代表:伊賀健一氏・東工大)主催による「微小光学セミナー2024」がオンラインで開催された。
 このセミナーは、同研究会が基本的に年4回開催する、最新のトピックスにスポットライトを当てた「研究会」とは異なり、極めて広範な分野を扱う微小光学について、重要領域に関する基礎や注目の領域などを短期間で幅広く学べる機会を提供することを目的にしている。その内容は、最新の研究成果や技術開発に基づいて各分野における第一人者が、基礎から応用分野までを分かりやすく解説する、どちらかと言えば講演というより講義に近いものとなっている。本格的に研究活動を始める大学院生や光学関連の商品開発を担当することになったフレッシュな企業研究者などが、専門知識を獲得するための足掛かりになるような内容となっている。
 今回のセミナーでは、近年発展が著しいメタサーフィス、光量子センシング、光無線給電、ディスプレイ・照明、光電融合素子、プラスチック光ファイバなどを含め、合計10本の講義が行われた。当日のプログラムを以下に記すとともに、それぞれの講演概要を案内文書から抜粋して紹介するとともに、最後に行われた伊賀健一氏による「微小光学の将来」については、予稿集をもとにやや詳しく紹介させていただく。

【8月5日】
◆微小光学の歩み:中島啓幾氏(早大)
◆導波光学と光回路:高橋 浩氏(上智大)
◆メタサーフェス光学:高原淳一氏(阪大)
◆光量子センシングの現状と展望:竹内繁樹氏(京大)
【8月6日】
◆半導体レーザーとLED:波多腰玄一氏(元東芝)
◆受光デバイスと光無線給電:宮本智之氏(東工大)
◆ディスプレイと照明:山本和久氏(阪大)
◆光電融合デバイス:松尾慎治氏(NTT)
◆エラーフリーPOFとその社会展開:小池康博氏(慶大)
◆微小光学の将来:伊賀健一氏(東工大)

講義の概要
 「微小光学の歩み」では、その発展の一例として長距離大容量光通信に焦点が当てられた。加えて、基本となる学術体系や要素技術に関する歴史的経緯をレビュー、さらにLSIなどの周辺技術についても解説した。
 「導波光学と光回路」では、光導波の原理と伝搬特性を解説、さらには光ファイバ通信で用いられている様々な光回路を紹介し、技術に関する基礎と応用について解説した。
 「メタサーフェス光学」では、一般化スネルの法則や幾何学的位相、ミー共振などの基礎原理をもとにして、メタサーフェス光学素子が示す新しい光学機能を説明、回折光学素子との関係やその位置づけについても解説した。
 「光量子センシングの現状と展望」では、「量子重ね合わせ」や「量子もつれ」など、古典的な電磁気学では記述できない量子の特異な性質を応用・制御する光量子技術を解説、その中でも特に光量子センシングについて、基礎から社会実装を目指した取り組みまでを紹介した。
 「半導体レーザーとLED」では、レーザ共振器における導波モードやLEDにおける配光特性など、光に関連する部分を中心に、半導体発光デバイスに関する基礎を解説した。
 「受光デバイスと光無線給電」では、光を受光する主要な方式であるpn接合に基づくフォトディテクタと太陽電池の原理や特徴の違いを解説するとともに、光をエネルギーとして利用する光無線給電の特徴や動向を紹介した。
 「ディスプレイと照明」では、進化を続けるディスプレイと照明は共通する部分もあり、機能の融合が始まっているとして、その原理や特徴から応用、さらには今後の展望までを紹介した。
 「光電融合デバイス」では、NTTが提唱するIOWN (Innovative Optical and Wireless Network) 構想のキーデバイス、シリコンフォトニクスと化合物半導体デバイスを用いた光集積回路、光電融合デバイスの研究動向を紹介した。
 「エラーフリーPOFとその社会展開」では、データを誤りなく伝送するFECに代表される誤り訂正処理を不要あるいは大幅に低減できるとして、エラーフリープラスチック光ファイバー(POF)の原理とその社会展開について述べた。
 最後の講義、「微小光学の将来」では、5G/6Gやデータセンターなどにおける光通信分野、3D顔認証やライダーなどの光センシング分野、空地海の広範な環境分野における将来を見通すとともに、構造光学(Structured Optics)や量子光学などの光システム、新規材料・デバイス系の発展などを支える微小光学技術の将来を考察した。

微小光学の将来
 「微小光学は五目飯」と語る伊賀氏は、これからのフォトニクス分野の核心は光通信(主に光インターコネクトと光トランシーバ)と光センシングであろうと指摘する。その上で、SDGsや脱酸素といった社会要請に対し、微小光学は省エネや小型化において適用分野を支え続けていくと語った。
 光通信分野では、5Gで出遅れた我が国の通信産業を復活させようと、官民挙げての取り組みも始まっている。その中で注目を集めるBeyond 5Gは、極低遅延、大容量伝送、低消費電力という特長に加え、そこにはAIというキーワードも視野に入ってくる。注目の技術としては、光ファイバ通信網の高速・大容量化、インターコネクト分野ではエラーフリーPOF、エッジコンピュータの高速化、高速半導体チップ、OE/EO変換と光IO技術の量産性、マルチアクセス系光システム、スマホ端末のディスプレイ、3次元顔認証技術などが挙げられた。
 光センシングには実に様々な手法が存在する。伊賀氏は、これを「千差万別(センサーばんべつ)」と表現する。宇宙からの重力波を検知するレーザ干渉計に加え、面発光レーザを高速波長掃引光源に用いた周波数掃引OCTは眼科から歯科応用にも発展しており、これら医療用のみならず距離測定にも発展すると期待される。
 アップルのスマホには、数百個の面発光レーザと微小光学素子から発するアレイ状の光ビームで顔の凹凸を認証する3次元顔認証システムが搭載されている。その技術はアンドロイド系端末にも採用されようとしているという。
 自動運転の分野でも全固体技術の開発は活発に行われており、自動車以外の様々な移動体にも採用されようとしている。面発光レーザは、今ではお掃除ロボにまで使われている。
 伊賀氏は、微小光学はレーザを基軸とするフォトニクスの基盤を形成する概念と材料、デバイス、システムを包含する総合技術であり、これからも発展し続けると指摘。その上で、陸域においては農業、林業、スポーツ、土木、建設、海域においては水産、探査、生態系、光通信、空域においては衛星通信、エネルギー転送、デブリ破壊、ディスプレイなど、地・海・空の領域での幅広い活用が期待されると語っていた。

最新のアクティビティ
 研究会の代表である伊賀健一氏は、このほどOPTICA(旧OSA)の「The 2024 Frederic Ives Medal/Jarus W. Quinn Prize」を受賞した。受賞理由は「半導体レーザーと光エレクトロニクスの分野における先駆的な貢献と先見的なリーダーシップ、および後進の育成と教育への貢献」。
 「Frederic Ives Medal」は、1929年に創設されたもので、光学分野における総合的功績を称えるOPTICAにおける最高賞だ。「The Quinn Prize」は、同学会初代事務局長であるJarus W. Quinn氏を記念して1995年に設けられたものだ。9月23日に授賞式が行われる予定だ。
 国際的な会議としては9月29日~10月2日、「The 29th MICROOPTICS CONFERENCE (MOC2024)」が台湾・高雄の国立中山大学の国際研究棟で開催される。同会議では、基礎研究からシステム、アプリケーションまで微小光学分野を幅広くカバー、この分野における研究の最新情報とレビューが披露される。詳しくは下記URLを参照。
https://www.comemoc.com/conference.html

(川尻 多加志)