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日本の産業競争力を強化する小型集積レーザ
マイクロ固体フォトニクス研究会/レーザー学会「小型集積レーザー」専門委員会が開催される

August, 1, 2024, 東京-- 

マイクロ固体フォトニクス研究会ならびにレーザー学会「小型集積レーザー」専門委員会が7 月4日(木)、自然科学研究機構・分子科学研究所(愛知県岡崎市)とオンラインのハイブリッド形式で開催された。
光科学の研究は、自然科学分野で未知の領域を開拓するという役目を担っているだけでなく、日本の産業競争力を強化する基盤になると、その進展に各方面から期待が集まっている。
今回の研究会では、小型集積レーザ研究の最新状況が紹介されるとともに、「すてるデザイン~デザインでつくる循環型社会への新たな切り口」と題する講演と「無制限の可動範囲を有する回転3自由度の球状歯車機構」という、普段あまり接することのない、しかしながら興味深い2本の研究の講演が行われた。
当日のプログラムを以下に記すとともに、次章以降で小型集積レーザ(TILA)の研究開発状況と、今後光技術製品にもその姿勢が求められるであろう循環型社会への新しいアプローチ、「すてるデザイン」についての講演概要を紹介する。

◆ 座長挨拶:平等拓範氏(理研/分子研)
◆ 講演「すてるデザイン~デザインでつくる循環型社会への新たな切り口」濱田芳治氏(多摩美)
◆ 講演「無制限の可動範囲を有する回転3自由度の球状歯車機構」多田隈理一郎氏(山形大)
◆ 委員会報告「TILA-LIC2024開催報告」
◆社会連携研究部門平等研究室見学
◆名刺交換会

小型集積レーザ(TILA)
物質や材料の性質をマイクロメータ(光の波長)オーダーで制御することで、固体レーザや非線形光学波長変換などの光学特性を強調して、新たな機能を発現させることを目指すのがマイクロ固体フォトニクスだ。
大型装置の小型・集積化はイノベーションの要とも言われている。そんな中、微細な秩序制御(高度な物質制御)を施した物質を集積することでジャイアント光(高輝度光・高輝度温度光)の発生・制御が望めるジャイアントマイクロフォトニクスによる小型集積レーザ(Tiny Integrated Laser:TILA)が注目を集めている。
研究は、高強度レーザの小型化を実現するマイクロチップレーザ、NdやYbなどを使用したレーザセラミックス、疑似位相整合を用いた非線形光学波長変換の三つの方向で進められている。その応用は、金属表面を叩いて押し延ばすことで表面に圧縮残留応力を付与するピーニングやフォーミングの他、レーザ核融合用の光源や自由電子レーザ、放射光源、粒子加速器の小型化など、幅広い。
レーザー学会「小型集積レーザー」専門委員会で主査を務める平等拓範氏は、高出力レーザ形状として分布面冷却(Distributed Face Cooling:DFC)構造を考案、研究チームではこの構造を用いたDFC構造集積レーザや、複数の異なる材料を原子レベルで常温接合する小型集積レーザを開発した。
マイクロチップレーザの応用では、屋外でも使用できる既存製品の約1/1000の体積・重量・消費電力を達成した小型・軽量レーザピーニング装置の実現に成功している。さらにJSTの未来社会創造事業「レーザー駆動による量子ビーム加速器の開発と実証」プロジェクトでは、室温でELI-DiPOLE(欧州先端高強度レーザ施設のDiode Pumped Optical Laser)を超える性能(>20mJ@100Hz)を達成した。
小型集積レーザの社会実装を目指して設立されたのが「TILAコンソーシアム」、ベンチャー企業の「HyTILA」も設立された。コンソーシアムの会員(有料会員)は現在37団体。会員になれば、社会連携研究部門との共同研究や分子研が所有する知的財産実施に係わる優遇措置に加え、同部門の収集したデータ提供や技術相談などの特典も受けられるという。

すてるデザイン
多摩美の濱田芳治氏は、循環型社会の構築を目指す「すてるデザイン」のプロジェクトリーダーとして活躍している。プロジェクトには現在、大学や企業、地方自治体など、約12の団体が参画する。
講演では、designとは何か、すてるデザイン(循環型社会構築のための取り組み)、デザインリサーチ(社会洞察・未来洞察)、地球視点・地球環境の状況、製品を長く使う(循環型のデザイン提案に求められる配慮)の他、LiDAR技術やレーザ技術の循環型社会での活用案などが提案された。
「すてるデザイン」はフェーズ1として、すてたものをデザインする(リサイクルやリユースされたマテリアルによるデザイン:対企業)から、フェーズ2として、すてる前提をデザインする(リサイクルすることを前提とした製品・サービスデザイン:対産業)に進み、フェーズ3として、すてるエコシステムをデザインする(回収する仕組みや循環トータルのデザイン:対社会)という3段階で進む。講演では、その具体的な取り組みも紹介された。
濱田氏は、循環型デザインに求められる配慮として、再生資材や循環可能な素材を用いる、製造時に端材が出にくいような工夫を施す、使用する資材を極力統一して少なくする、資材ごとに解体できるように工夫する、資材を極力変性させずにそのまま使用する、製品を修理・メンテナンスし易くする工夫を施す、製品を定番化して長く売る、製品を共通ユニット化していく、製品が傷みにくい工夫を施す、製品上の傷を目立たなくする工夫を施す、経年優化する素材を用いることを指摘して、いくつもの具体例を紹介した。
濱田氏は、LiDAR技術によって発火事故の多発するリチウムイオン電池を検出する手法に期待するとも述べる。リチウムイオン電池の発火が、ゴミ収集車を始めとした産業廃棄物処理の現場で多発している。リチウムイオン電池は電子タバコやハンディファンなど、我々の身の回りにおいて実に多くの製品に使用されている。これらが無造作に燃えないゴミに混入して、作業員には見えない状態でゴミ回収が行われているのが現状だ。発火件数は年間1万件を超えているという。発火によってごみ処理場で一時的に粗大ごみの受け入れができなくなったという事例も発生した。
濱田氏は、LIBS(レーザ誘起ブレークダウン分光法)を用いたソーター機を使うことで、ごみの中からリチウムイオン電池を検出できるのではないかと提案。ハンディタイプの検出器もあれば、ゴミ収集車の現場での活用が期待できるとも述べた。さらに、この技術が確立できれば「都市鉱山」と注目を集める産業廃棄物の中からレアアースやレアメタルなどを見つけることもできるのではないかと技術の進展への期待を示した。
カビの駆除にも光技術が適用できるのではないかと指摘する。古い団地では、2003年以降に設置が義務化されている24時間換気システムが施されていない。そのためカビが生えやすく、そこに住む高齢者などの生活弱者の健康を害する恐れがある。このまま地球温暖化が進めば、我が国の気候は亜熱帯化し、気温や湿度はますます上昇、住居環境はカビの増殖に適した方向に向かって行くと危惧されている。
一般的にカビの駆除方法には、塩素系カビ取り剤やアルコール、次亜塩素酸水、ガスバーナー、太陽光などを用いるものがあるというが、カビを根から除去できる簡易な方法は現状では確立していない。濱田氏は、レーザクリーニング技術やUV-Cといった紫外線の活用でカビを根から殺傷することが可能ではないかとして、その技術確立を検討してほしいと述べた。

今後の予定
次回以降の研究会は、第2回が9月4日(水)、第3回が12月18日(水)、第4回が2025年2月12日(水)に、それぞれ分子研とオンラインのハイブリッド形式で行われる予定だ。
この他、国際会議としては「Optica Laser Congress」が10月20 日(日)~25 日(金)、グランドプリンスホテル大阪ベイで、「TILA-LIC2025」が2025年4月21日(月)~25 日(金)、パシフィコ横浜で開催されることになっている。詳しくは、TILAコンソーシアム(下記URL)のイベント情報を参照されたい。
https://tila.ims.ac.jp/

(川尻 多加志)