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MIT、初のチップベース3Dプリンタをデモ

July, 17, 2024, Cambridge--手のひらに収まるポータブル3Dプリンタを考える。この小さなデバイスにより、ユーザは、ぐらつく自転車の車輪を修理するための留め具や、重要な医療手術用の部品など、カスタマイズされた低コストのオブジェクトを外出先で迅速に作成できる。

マサチューセッツ工科大学(MIT)とテキサス大学オースティン校の研究者は、初のチップベースの3Dプリンタを実証することで、このアイデアを実現するための大きな一歩を踏み出した。チームの概念実証デバイスは、1つのミリメートルスケールのフォトニックチップで構成されており、再構成可能な光線を樹脂のウェルに放出し、光が当たると硬化して固体形状になる。

プロトタイプのチップには可動部品がなく、代わりに小さな光アンテナのアレイに依存して光線を誘導する。ビームは、ビームの波長の可視光に曝されると急速に硬化するように設計された液体樹脂に投影される。

学際的な研究チームは、シリコンフォトニクスと光化学を組み合わせることで、光線を誘導してM-I-Tの文字を含む任意の2次元パターンを3Dプリントできるチップを実証することができた。ほんの数秒で形状を完全に形成できる。

長期的には、フォトニックチップを樹脂ウェルの底に置き、可視光の3Dホログラムを放射し、1つのステップで物体全体を急速に硬化させるシステムを想定している。

このタイプのポータブル3Dプリンタは、臨床医がオーダーメイドの医療機器コンポーネントを作成したり、エンジニアが現場で迅速なプロトタイプを作成したりできるようにするなど、多くのアプリケーションがある。

「このシステムは、3Dプリンタとは何かを根本から見直すものだ。もはや、研究室のベンチに座ってオブジェクトを作成する大きな箱ではなく、手持ちで持ち運び可能なものである。そこから生まれる新しいアプリケーションや、3Dプリンティングの分野がどのように変化するかを考えると、とてもワクワクする」と、Robert J. Shillman Career Development Professor in Electrical Engineering and Computer Science (EECS) の主任著者、Research Laboratory of ElectronicsのメンバーJelena Notarosは話している。

Notarosに加わったのは、筆頭著者でEECSの大学院生、Sabrina Corsettiなど。
この研究成果は、Nature Light Science and Applicationsに掲載されている。

チップでプリンティング
シリコンフォトニクスのエキスパートNotarosグループは、半導体製造プロセスを利用し、チップ上に製造された一連のマイクロスケールアンテナを使用して光ビームを誘導する統合光フェーズドアレイシステムを開発した。アンテナアレイの両側の光信号を高速化または遅延させることにより、放出された光ビームを特定の方向に移動させることができる。

このようなシステムは、近くの物体に跳ね返る赤外線ビームを放射することで周囲をマッピングするLiDARセンサにとって重要である。最近では、拡張現実(AR)アプリケーション向けに可視光を放射して操縦するシステムに焦点を当てている。

チームは、そのようなデバイスをチップベースの3Dプリンタに使用できるかどうかを考えていた。

ブレインストーミングを始めたのとほぼ同時期に、UTオースティン校のPage Groupは、可視光波長を使って急速に硬化できる特殊な樹脂を初めて実証した。これは、チップベースの3Dプリンタを現実のものにするために欠けていた部分だった。

「光硬化性樹脂では、赤外線の波長まで硬化させるのは非常に難しい。LiDAR用の集積型光フェーズドアレイシステムが稼働していた波長である。ここでは、標準的な光化学とシリコンフォトニクスの中間で、可視光硬化性樹脂と可視光発光チップを使って、このチップベースの3Dプリンタを作り上げている。2つのテクノロジーを融合させ、まったく新しいアイデアを生み出したのである」(Corsetti)。

チームのプロトタイプは、厚さ160nmの光アンテナアレイを含む単一のフォトニックチップで構成されている。(1枚の紙の厚さは約10万nm。チップ全体が米国のクオータに収まる。

オフチップレーザでパワーを与えると、アンテナは操舵可能な可視光ビームを光硬化性樹脂のウェルに放出する。チップは、顕微鏡で使用されるような透明なスライドの下にあり、樹脂を保持する浅いくぼみが含まれている。研究チームは、電気信号を使って光ビームを非機械的に操り、光ビームが当たった場所で樹脂を固化させる。

共同作業によるアプローチ
とは言え、可視波長の光を効果的に変調するには、その振幅と位相を変更する必要があり、特に注意が必要である。一般的な方法の1つはチップを加熱する必要があるが、これは非効率的であり、大量の物理スペースを必要とする。

その代わりに、研究チームは液晶を使って、チップに集積するコンパクトな変調器を作製した。この材料のユニークな光学特性により、変調器は非常に効率的で、長さはわずか約20µmである。

チップ上の1つの導波路は、オフチップレーザからの光を保持する。導波路に沿って走る小さなタップは、各アンテナに少しずつ光を当てる。

研究チームは、液晶分子を特定の方向に再配向させる電場を使用して、変調器を積極的に調整する。このようにして、アンテナに送られる光の振幅と位相を正確に制御できる。

しかし、ビームを形成して操縦することは、戦いの半分にすぎない。新しい光硬化性樹脂とのインタフェースは、まったく異なる課題だった。

UTオースティンのPage Groupは、MITのNotaros Groupと緊密に連携し、化学物質の組み合わせと濃度を慎重に調整し、保存期間が長く、迅速な硬化を実現する処方に狙いをつけた。

最終的に、研究グループはプロトタイプを使用して、任意の2次元形状を数秒で3Dプリントした。

このプロトタイプを基に、当初構想していたような、可視光のホログラムを樹脂ウェルに放射し、わずか1ステップで体積3Dプリントを可能にするチップの開発に着手したいと考えている。

「それを可能にするには、まったく新しいシリコンフォトニクスチップ設計が必要である。この論文では、最終的なシステムがどのようなものになるかについて、すでに多くのことを説明した。今、われわれはこの究極のデモンストレーションに向けて取り組み続けることに張り切っている」とJelena Notarosは話している。