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移動中のマウスの大規模な脳活動を捉える軽量顕微鏡

July, 11, 2024, New York--ネズミが環境を探索すると、脳全体の何百万ものニューロンが同期して発火する。一度に小さな部分だけを研究するのは、木を見て森を見ずということになるが、マウスの脳全体を同時に撮影できる強力な顕微鏡は、移動するマウスに取り付けるには重すぎる。

今回、Nature Biomedical Engineering誌に掲載された新しい研究は、この問題に対する革新的な解決策を提示している:わずか1ドル(US penny)ほどの重さで、前例のない解像度で脳活動の広範囲を捉えることができる顕微鏡である。「マウスが社会的相互作用や獲物捕獲などの自然な行動をとる様子を観察する能力は、脳全体に分布する神経活動が自然主義的行動とどのように関連しているかについての理解を深めるだろう」と、研究を主導したロックフェラー大学のAlipasha Vaziriは話している。

マウスサイズの顕微鏡
大型の哺乳類は標準的なヘッドマウント顕微鏡を搭載でき、ラットでさえ約20グラム(8コのペニー)の技術を支えることができる。しかし、脳の働きを理解するための頼りになるモデル生物であるマウスは、はるかに小さい。それらに適合するように設計された顕微鏡は、重量が3グラム未満でなければならない。

「近年、マウス用のヘッドマウント顕微鏡が爆発的に増えているが、通常、細胞分解能で数百マイクロメートルの視野のイメージングしかサポートしていない。より広い視野には複雑な設計が伴い、持続不可能な重量のペナルティが伴うからである」と、Vaziriは説明している。マウスが持ち運べるほど軽量な既存のモデルは、顕微鏡の視野、解像度、深度範囲(またはそれらの組み合わせ)を常に妥協を強いられ、動きによるアーチファクトが発生しやすくなる。

この限界を克服するためのこれまでの試みは、重いレンズが重量の大部分を占める顕微鏡(特に視野を広げて撮像できるもの)の基本的な光学設計を維持しながら、金属部品をプラスチックに交換するなど、既存の技術を軽量化することを目的としていた。Vaziriは、同氏が「原則的なアプローチ」と呼ぶもので、この課題に取り組んた。複雑なシステムのレンズベースのシステムの重量を軽くしようとするのではなく、サンプルの3Dボリューム内の点とカメラの2D表面上の点との間の高解像度マッピングの問題を解決するという、この技術の真の目標を明確にした。そのことを念頭に置いて、同氏は、画像を保持するレンズベースのシステムに適応する必要性に制約を感じることなく、これらの目標を達成する軽量システムの作成に着手した。

「誰もがこの多枚構成の重いレンズを使い、軽量化しようとしていた。レンズをいかに軽くするかを問うのではなく、本質的にレンズレスの戦略を開発し、レンズベースの画像形成の不必要な制約から解放されることで、逆の問題を解決し、問題を回避した」(Vaziri)。

新しい考え方=新しいアプローチ
回折光学素子(DOEs)の導入である。従来のレンズは、波面の球面曲率を連続的に曲がらせるが、DOEsは微細構造を用いて回折によって光を操作するため、光波を精密に制御することができる。コンパクト、軽量、そして効果的である。顕微鏡では、従来のレンズの機能は、物体上の空間内の点を画像平面(カメラセンサなど)にマッピングし、形成された画像が実際のシーンに似ていることを確認することである。しかし、解像力を保ちながら視野をどんどん広げようとすると、1枚のレンズで発生する誤差(光学収差)により、より多くのレンズ要素が必要となり、複合レンズ設計になる。

Vaziri研究室では、DOEsを使用して、画像を形成することなくシーンとセンサの間の位置を正確にマッピングし、計算手法を使用して元のシーンを再構築できることを実証した。

重厚な複合レンズを使わず、重量はわずか2.5gで、横方向分解能4µm、被写界深度300µm、記録速度16/秒で、3.6 x 3.6 mm²の視野でマウス脳の広い部分を捉えることができるイメージングを提供する。また、その部品のほとんどは3Dプリントしたり、安価な消費者向け携帯電話のカメラセンサを利用したりすることができる。「研究室が興味を持てば、これらの顕微鏡を低コストで簡単に作ることができる」(Vaziri)。

ミニ顕微鏡の将来的な処理には、ワイヤレスデータ伝送(現在のモデルには、1匹のマウスの邪魔にならないが、複数のマウスが互いに相互作用しているのを観察する際に簡単に絡まりやすいケーブルが付属している)と、大脳皮質のより深い位置にある脳の領域を観察できるように技術を微調整することが含まれる可能性がある。

「このシステムにはいくつかの犠牲が伴い、大型の顕微鏡ほど高性能ではない。しかし、これは重要なイノベーションであり、問題に新鮮な考え方をもたらし、認識された制約から自分自身を解放することによってのみもたらされたものである」(Vaziri)。