July, 3, 2024, New York--レンセラー工科大学(Rensselaer Polytechnic Institute)の研究チームは、室温で動作する強い光と物質の相互作用領域における最初のトポロジカル量子シミュレータデバイスを作成した。
レンセラー工科大学の研究チームは、物理学者が物質と光の根本的な性質を調査するのに役立つ、人間の髪の毛ほどの幅しかない装置を製作した。学術誌「Nature Nanotechnology」に掲載されたこの研究成果は、医療から製造まで幅広い分野で使用される、より効率的なレーザの開発にも役立つ可能性がある。
このデバイスは、フォトニックトポロジカル絶縁体と呼ばれる特殊な種類の材料でできている。フォトニックトポロジカル絶縁体は、光を構成する波状の粒子であるフォトンを、材料内で特別に設計された界面に導くと同時に、これらの粒子が材料自体を散乱するのを防ぐことができる。
この性質により、トポロジカル絶縁体は、多くのフォトンを1つのフォトンのようにコヒレントに振る舞わせることができる。また、トポロジカルな「量子シミュレータ」として、研究者が量子現象(物質を支配する物理法則)を非常に小さなスケールで研究できるミニチュアラボラトリーとしても使用できる。
「われわれが作ったフォトニックトポロジカル絶縁体は他に類を見ないものであり、室温で動作する。これは大きな進歩である。以前は、真空中の物質を超冷却する大型で高価な装置を使って、この状態を研究するしかなかった。多くの研究室ではこの種の機器を利用できないため、われわれのデバイスにより、より多くの人が研究室でこの種の基礎物理学研究を追求できるようになる」と、RPIの材料科学・工学科の助教授、Nature Nanotechnology研究の主任著者Wei Baoは説明している。
「また、動作に必要なエネルギーが少ないレーザの開発においても有望な一歩である。われわれの室温デバイスの閾値(動作させるために必要なエネルギー量)が、以前に開発された低温デバイスよりも7倍低いためである」とBaoは付け加えた。
RPIの研究チームは、半導体産業でマイクロチップを製造するのと同じ技術で、原子ごと、分子ごとに異なる種類の材料を積層して、特定の特性を持つ目的の構造を作成する新しいデバイスを作成した。
この装置を作るために、研究チームは、セシウム、鉛、塩素でできた結晶であるハロゲン化物ペロブスカイトの極薄板を成長させ、その上にポリマをパタンエッチングした。この結晶板とポリマを様々な酸化物のシートで挟み込み、厚さ約2µm、長さと幅約100µm(平均的な人間の髪の毛の幅は100µm)の物体を形成した。
研究者がデバイスにレーザ光を当てると、材料に設計された界面に輝く三角形のパターンが現れた。このパターンは、デバイスの設計によって決定され、レーザのトポロジカル特性の結果である。
「室温で量子現象を研究できることは、非常にエキサイティングなことだ。Bao教授の革新的な研究は、材料工学が科学の最大の疑問のいくつかに答えるのにどのように役立つかを示している」と、RPI工学部の学部長、Shekhar Gardeはコメントしている。