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Q-LEAPにおける次世代レーザ研究
拠点形成と基礎基盤研究

February, 9, 2024, 東京-- 

 前回記事でも紹介した「光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)」の第6回シンポジウムが2月8日(木)、東大・伊藤国際学術研究センター・伊藤謝恩ホール(東京都文京区)で開催された(主催:文科省)。本稿ではQ-LEAPプロジェクトレポートの第2段として、光エレクトロニクス分野におけるキーデバイスとも言える次世代のレーザに的を絞り、その研究開発の概要を紹介する。
 繰り返しになるが、Q-LEAPは「次世代レーザー」、「量子計測・センシング」、「量子情報処理」の3つの技術領域において、それぞれでネットワーク型の研究拠点を形成するとともに、技術領域ごとに「Flagshipプロジェクト」と「基礎基盤研究」を行うというものだ。この他にも、量子技術の次世代を担う人材育成を強化する「人材育成プログラム」が設けられ、共通的な教育プログラムを開発する。
 今回紹介する「次世代レーザー」ではFlagshipプロジェクトが2件、基礎基盤研究Q-LEAPプロジェクトが4件採択されている。

Flagshipプロジェクト
 Flagshipプロジェクトで目指すのが「先端レーザーイノベーション拠点 (ALICe)」の構築だ。研究開発代表者は東大の藤井輝夫執行役・副学長、代表代行は同じく東大の石川顕一教授が務める。プロジェクトは、以下に示す2つのテーマで進められる。

①「光量子科学によるものづくりCPS化拠点 (STELLA)」(共同研究機関:慶大、理研、電通大、量子研、阪大)

②「次世代アト秒レーザー光源と先端計測技術の開発 (ATTO)」(共同研究機関:理研、量子研、物質・材料研、高エネルギー研、分子研、シグマ光機、東海光学、トヤマなど)

 プロジェクトでは、サイバー空間での加工シミュレーションのみで最適な加工パラメータを提案できるCPS型レーザ加工(シミュレータ)を開発するとともに、物質内の超高速電子移動のメカニズム解明等に必要な高繰り返し型、および高強度型アト秒パルス光源のプロトタイプを開発し、この光源を用いた先端計測機器等のプロトタイプ開発も一体で実施する。
 マイルストーンとして掲げられたのは、「光量子科学によるものづくりCPS化拠点」では5年目にAIを活用した加工パラメータ予測を行うAI-CPS型レーザ加工(シミュレータ)を開発し、10年目でレーザ加工学理に基づいたシミュレーションによって加工パラメータ予測を行う学理CPS型レーザ加工(シミュレータ)を開発すること。一方の「次世代アト秒レーザー光源と先端計測技術の開発」では、5年目に高繰り返し型(10kHz)および高強度型(1GW)の孤立アト秒パルス光源を開発、10年目に先端計測機器のプロトタイプ機等を開発して、基礎・応用研究に利用できる環境を整備する。
 出口戦略としては、他のQ-LEAPプロジェクトやコンソーシアム等と連携し、持続可能な産学協創エコシステムの構築を推進するとともに、研究開発を行う過程で随時成果を社会実装することを目指している。
 研究基盤の強化と次世代の人材を育成するために、先端光量子科学アライアンス(APSA)等を発展的に継承、オールジャパンのネットワーク型連携体制も形成する。これにより、日本発の新しい科学・技術を創出し、基礎基盤研究を強化するとともに、10年事業としての意義を活かし日本の新たな強みとなる学術を生み出し、次世代を先導する卓越した若手人材を育成する。さらに、最優秀の博士課程学生をプロの研究者として支援する制度を新設、産業界との連携に携わる学生等を研究員として雇用する計画だ。

基礎基盤研究
 基礎基盤研究の採択課題は全部で4つ。それぞれのテーマと研究代表者、研究概要、上記Flagshipプロジェクトとの相補的・相乗的効果について紹介する。

①強相関量子物質におけるアト秒光機能の開拓(研究代表者:東北大 岩井伸一郎教授)
 強相関量子物質(有機物超伝導体、銅酸化物高温超伝導体、キタエフ量子スピン液体物質等)の非線形アト(10-18)秒ダイナミクスを明らかにし、そのペタ(1015)ヘルツ光機能を開拓する。Flagshipプロジェクトとの相補的・相乗的効果としては、強相関量子物質が持つ潜在能力を、アト秒機能物質としてどのように活かすべきかという具体的な戦略提示を狙う。

②超短パルスレーザー加工時の原子スケール損傷機構の解明に基づく材料強靱化指導原理の構築(
研究代表者:阪大 佐野智一准教授)
 超短パルスレーザ加工時の原子スケールの損傷機構を解明することにより、原子スケール損傷を欠陥ではなく材料強化プロセスとして高度化し、材料強靭化の指導原理を構築することを目指す。Flagshipプロジェクトとの相補的・相乗的効果としては、所望の材料・機械特性を得るためのレーザ加工パラメータを導き出すためのCPS型レーザ加工(シミュレータ)の開発を挙げている。

③先端ビームによる微細構造物形成過程解明のためのオペランド計測(研究代表者:京大 橋田昌樹准教授)
 先端ビームによるオペランド計測を実施することで、微細構造の大きさや密度を決定するレーザと物質との相互作用に関する物理機構を解明し、新しい表面機能性付与のためのレーザ加工基盤を構築する。Flagshipプロジェクトとの相補的・相乗的効果としては、材料表面機能性付与のためのレーザ加工学理の解明によりCPS型レーザ加工(シミュレータ)の高度化を掲げる。

④自由電子レーザーで駆動する高繰り返しアト秒光源のための基礎基盤技術の研究(研究代表者:量子研 羽島良一上席研究員)
 自由電子レーザを用いて中赤外の波長領域でのパルス発生と、これを利用した高次高調波による固体レーザを超える高繰り返し型(10MHz以上)アト秒X線を発生させる。Flagshipプロジェクトとの相補的・相乗的効果としては、Flagshipプロジェクトとは異なる技術アプローチ、および10MHz以上の繰り返し動作の実現を挙げている。

 Q-LEAPは、経済・社会的な重要課題に対して量子科学(光・量子技術)を駆使して非連続的な解決を目指すというプログラムだ。2月8日の第6回シンポジウムでは、今回紹介した次世代レーザを始め、各領域プロジェクトにおける研究開発の進捗状況や量子コンピュータに関する基調講演、さらにはプロジェクト研究の概要等を紹介するポスターセッションも行われるなど、光・量子技術に対する注目と期待に応えるものになったと言えよう。
(川尻 多加志)