January, 22, 2024, つくば--NIMSは、電子線をパルス化した特殊な走査透過電子顕微鏡と独自の精密温度測定技術により、熱の伝搬経路や動きを観察できる新たなナノスケール熱輸送観察法を開発した。
近年、省エネルギーや再エネルギー化の観点から、排熱を電気に変換する熱電変換デバイスや、高温にさらされる電子部品等を冷却する放熱用複合材料など、熱を精密に制御・利用する次世代の材料・デバイスの開発が期待されている。一方、ナノスケールでの熱の移動は、構成材料の種類、欠陥、大きさによって、その大きさ、速さ、経路、伝導メカニズムが異なるため、ナノ構造を観察しながら材料内部の熱の流れを直接観察できる新しい手法の開発が期待されている。
研究チームは、透過電子顕微鏡でナノサイズに絞った電子線をパルス状にして試料に照射し、断続的に変化する温度を極小サイズの熱電対 (NIMSが開発) で測定する観察法を開発した。熱源をパルス化することで、試料中を伝わる熱に時間的な変化を与えることができるため、伝わる熱の速さや大きさを解析することが可能になった。特に、試料上でナノサイズの熱源の位置を、ナノスケールの精度で変えることができるため、熱源の場所を変えながら熱が伝わる時間 (位相差) や大きさ (振幅) を画像として記録できる。この画像を元に、材料中のナノスケール領域の熱伝導性を測定できるだけでなく、熱の伝わり方をアニメーションとして直接観察することもできる。
今後、電子顕微鏡が得意とする微細構造評価とこの研究のナノ熱流観察法により、実材料中の複雑な熱の流れとミクロな構造の関係を明らかにし、次世代の熱輸送材料や熱電変換デバイス等の高性能化に貢献することが期待される。
具体的には、放熱用複合材料内での複雑な熱伝導メカニズムの解明、ミクロな溶接・接合部界面における熱伝性能の評価など、実用材料の高性能化につながる観察が可能になる。特に熱電変換材料では、熱の動きを直接観察することによる精密な特性評価が可能となり、より高性能・高効率なデバイス開発に貢献することが期待される。
研究成果は、Science Advances誌の2024年1月13日 (日本時間) 発行号 (Vol. 10, Issue 2) に掲載された。
(詳細は、https://www.nims.go.jp)