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ナノスケールの超高速光誘起現象を捉える 新型の時間分解原子間力顕微鏡(AFM)法を開発

January, 16, 2024, 筑波--筑波大学の研究者は、原子間力顕微鏡法(AFM)と独自のレーザ技術を組み合わせた新しいタイプの時間分解AFM装置を開発した。
導体、絶縁体を問わず試料にレーザ光を極短時間照射した際に生じる現象(超高速光励起現象)を原子間に働く力の変化で計測できる。新原理や新分野の創出への貢献が期待される。
超高速通信やAI(人工知能)を支える半導体素子では現在、2nmの基本構造を持つ高性能素子の開発が目標となっている。こうした世界では、原子1個レベルの欠陥構造や、電子の挙動(ダイナミクス)のわずかな乱れがマクロな現象に大きな影響を与え、素子の機能を支配する要因となる。従って、高性能素子の開発には、ナノメートルの世界で起こる物理や化学の高速現象を深く理解し、制御するための技術開発が不可欠となる。

研究チームは、走査トンネル顕微鏡(STM)とレーザ技術を組み合わせ、ナノレベルの空間分解能とフェムト秒レベルの時間分解能を両立する時間分解STM法を開発し、様々な光励起ダイナミクスの解明に貢献してきた。しかし、STMは探針と試料の間に流れる電流を利用するため、電気が流れる半導体や金属に対象が限られるという課題があった。

研究では、原子間力顕微鏡法(AFM)と独自の超短パルスレーザ技術を組み合わせ、操作性の高い新型の時間分解AFM装置を開発した。これにより、絶縁体を含めたより幅広い材料の高速なダイナミクスをナノメートルの分解能で計測可能となった。照射するレーザ光による探針や試料の熱膨張問題を解決する独自手法を適用し、従来にない高いSN(信号/雑音)比で時間分解信号が得られた。また、レーザ発振を電気的に制御する方法を取り入れ、高い操作性も実現した。

AFMの計測可能な対象は広範で、この研究で開発した技術により、学術研究だけでなく工業や医療など幅広い分野への波及効果が考えられる。さらに、探索可能な領域が大きく広がることで、新しい原理の発見や新しい分野の創出に貢献することが期待される。
(詳細は、https://www.tsukuba.ac.jp