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物質・材料研究を加速させる先端計測研究
物質・材料研究機構、先端計測シンポジウム2023を開催

March, 3, 2023, 東京-- 2月24 日(金)、「NIMS先端計測シンポジウム2023 ~物質・材料研究を加速させる先端計測研究~」が、茨城県つくば市千現の物質・材料研究機構(NIMS)内会場とオンラインでハイブリッド開催された(主催:NIMS 先端材料解析研究拠点 先進材料イノベーションを加速する最先端計測基盤技術の開発プロジェクト)。

 同研究機構では、2016年から計測技術開発と材料評価によってイノベーションを加速する「先進材料イノベーションを加速する最先端計測基盤技術の開発」プロジェクトを推進してきた。本年度は、その最終年度にあたる。そこでプロジェクトの最終報告会として、「物質・材料研究を加速させる先端計測研究」と題し、今回の「先端計測シンポジウム2023」の開催が決まった。

 新奇な物性や優れた材料特性を発現するメカニズムを解明し、材料イノベーションへとつなげるには物質材料の最表面や表層・界面・微細構造・局所構造・スピン磁気構造・バンド構造などをマルチスケールで評価することが求められる。同研究機構では、走査プローブ顕微鏡、光電子分光法、透過電子顕微鏡、固体核磁気共鳴、中性子散乱、強磁場物性計測、放射光計測など、様々な計測手法の研究に取り組み、開発した先端計測技術を、材料研究開発の国家プロジェクトを初め、他の研究機関や企業との共同研究などに展開して来た。

 開発プロジェクトは世界トップレベルの計測コアコンピタンスの研究、ニーズに対応したマルチスケール/オペランド計測(実際の動作環境における動的現象の機能解明を目的とした計測)の開発、先端計測インフォマティクス(機械学習等の情報科学)の先導を指針として、(1)走査プローブ顕微鏡(SPM)、(2)光電子分光法(XPS)、(3)電子顕微鏡(TEM)、(4)核磁気共鳴(NMR)、(5)量子ビーム(中性子・放射光等)をサブテーマに設定、その研究を実施するとともに、手法開発と材料展開を好循環サイクルとして、新規計測法の開発、材料課題の解決、新材料の提案、計測器の実用化など、これまでに数多くの成果をあげて来た。

 今回のシンポジウムでは、先端材料計測分野において世界的に著名な柴田直哉氏(東京大工学系研究科総合研究機構 機構長・教授)が招待講演を行うとともに、プロジェクトの最新の研究成果が口頭発表とポスター発表で行われた。当日のプログラム概要は、以下の通りだ。

◇開会挨拶「先進材料イノベーションを加速する最先端計測基盤技術の開発」
木本浩司氏(NIMS先端材料解析研究拠点 拠点長 プロジェクトリーダー)

◆特別講演「原子分解能磁場フリー電子顕微鏡(MARS)の開発と材料応用」
柴田直哉氏(東京大大学院工学系研究科総合研究機構 機構長・教授)
◆招待講演01「超高分解能プローブ顕微鏡を用いた表面化学の研究」
川井茂樹氏(NIMSナノプローブグループ グループリーダー)
◆招待講演02「高感度高精度電子顕微鏡法の開発とナノ領域その場物性計測」
三石和貴氏(NIMS先端材料解析研究拠点 副拠点長)

◇ポスターセッション:P01~P42

◆招待講演03「強磁場固体NMRおよび強磁場光物性計測に関する技術開発と応用」
後藤敦氏(NIMS固体NMRグループ グループリーダー)
◆招待講演04「中性子散乱を活用した先端材料研究開発」
間宮広明氏(NIMS中性子散乱グループ 主席研究員)
◆招待講演05「顕微光電子分光による原子層材料の電子状態分析」
矢治光一郎氏(NIMS光電子分光グループ グループリーダー)
◆招待講演06「酸化物ガラス・液体の中距離構造」
小原真司氏(NIMS先端材料解析研究拠点 独立研究者)

◇閉会挨拶 木本浩司氏(NIMS先端材料解析研究拠点 拠点長 プロジェクトリーダー)

光関連の研究も進展
 プロジェクトでは光関連の研究も活発に行われた。実働環境計測技術開発グループでは、従来の通電加熱方式を用いた加熱実験用TEM(透過型電子顕微鏡)試料ホルダーでは限界があった2000℃級の超高温耐熱材料の「その場(In-situ)TEM観測」を実現するため、レーザー加熱方式と2色式放射温度計を用いて再現性が高く正確な温度測定のための予備実験を実施した。

 固体NMRグループでは、光を使った強磁場磁歪測定技術を開発するとともに、可視領域とテラヘルツ波領域での磁気光学測定を周波数的につなげるため、ミリ波・サブミリ波領域、近赤外領域、紫外領域で磁気光学測定の拡張を行い、幅広い物質材料へ適用した。
 フーリエ分光、顕微分光を用いて遠赤外から紫外までの絶対反射率測定を立ち上げ、幅広い周波数帯における連続的光学測定の実現にも成功。低エネルギー領域を含む幅広いエネルギー範囲で測定が可能な反射型強磁場中テラヘルツ分光測定装置も開発し、 ビスマスのサイクトロン共鳴計測の研究も実施した。

 中性子散乱グループでは、光制御デバイスへの応用が期待されている酸化銅の高圧下中性子実験を行い、磁性と強誘電性を併せ持つマルチフェロイクス相が現れる温度が18.5GPaで室温295Kまで上昇することを見出すなど、革新的機能発現に向けた多くの指針を得ることに成功している。

 光電子分光グループでは、実空間分解モードの光電子顕微鏡(PEEM)測定と波数空間分解モードの角度分解光電子分光(ARPES)測定、およびこれらのスピン分解測定が可能な高輝度レーザーを用いた高空間分解能スピン分解光電子分光装置の開発を進めた。
 スピン偏極度や電子-格子相互作用結合定数などの物性パラメータを導出するために、グループが開発した、大量のスペクトルデータからピークや半値幅などの情報をハイスループットで抽出するパッケージ「EM Peaks」を用いて適用条件を最適化、高空間分解能スピン分解光電子分光データの高速自動解析システムの構築も計画している。
 2024年度には、レーザーと放射光を駆使して高空間分解、高効率スピン分解、オペランド計測が可能なナノスケール顕微分光の実現も目指す。

ベスト・ポスター・アワード
 最も優れたポスター発表に授与される「ベスト・ポスター・アワード」は以下の3本の研究に決まり、現地会場で授与式も行われた。

◆「RHEED 画像の機械学習を活用した輝度ヒストグラム解析」
吉成朝子氏(東京理科大、NIMS)、他
◆「顕微ラマンスペクトル解析手法開発における機械学習応用とグラフェンの層数同定」
後藤陸氏(東京理科大、NIMS)、他
◆「高温圧縮による高密度SiO2ガラスの合成と構造解析」
佐藤柊哉氏(東京理科大、NIMS)、他

 同研究機構では、数多くの研究成果をあげ今年度で終了するプロジェクトの後継として、2023年度から次期中長期計画「マテリアル革新力強化につながる計測技術の開発と展開」プロジェクトをマテリアル基盤研究として進めて行く計画だ。
(川尻 多加志)