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時間分解走査トンネル顕微鏡の簡易化・安定化に成功

February, 8, 2023, つくば--筑波大学の研究チームによると、研究成果は、1000億分の1秒と10億分の1メートルの精度で電子の動きを測定する技術の普及に道を開く

 現代科学は、物質の性質を顕わにする計測技術の発明と進歩を土台に発展してきた。近年は高速で時間変化する現象を捉える技術開発が盛んに進められている。背景には、スマートフォンなどで使われる半導体デバイスをさらに高性能化するため、より小さく、より動作が速いものが求められている状況がある。現在では、デバイスの基本構造の大きさは10nmの領域に入り、動作時間の尺度もピコ秒(ps)領域に迫っている。

 これらのデバイスの特性を十分に理解し評価するためには、ナノスケールのデバイス構造において、ピコ秒の時間領域における電子の動き(ダイナミクス)を観察する計測技術が必要。
 研究チームはその有望な方法の一つとして、原子1個1個を観察できる走査トンネル顕微鏡(STM)に超高速レーザ技術を組み合わせた時間分解STM装置を開発してきた。応用も始まっているが、高度な技術要素に対する深い理解と高い専門性が必要で、利用拡大を進める上での課題となっていた。

 研究では、これまでの光学システムの仕組みを大幅に簡易化し、時間分解STM測定を容易に行うことが可能な装置の開発に成功した。また、画像データ取得に必須な装置の長時間安定性も大幅に向上させることができた。具体的には、レーザの動作をすべて電気的に制御することで光学システムを大幅に小型化し、顕微鏡内部にレーザを集光するレンズを設置することで、試料へのレーザ照射位置が長時間安定な状況を実現した。この装置を用い、ガリウム砒素半導体の表面における電子の挙動をピコ秒の領域で観察、ナノスケールで画像化することに成功し、装置の性能を実証した。

 この装置の開発により、この強力な計測技術を用いたダイナミクス画像の取得が従来に比べて格段に容易に、かつ安定して行えるようになった。この技術の普及を可能にすることで、半導体デバイス材料、太陽電池材料、光触媒材料等の幅広い開発・研究分野への展開が期待される。
(詳細は、https://www.tsukuba.ac.jp/)