December, 5, 2022, 沖縄--バスケットボールをシュートするとき、ボールの軌道は、力学的な力と選手の技術でコントロールすることができる。しかし原子や電子などの量子系の振る舞いを制御することは、それよりはるかに困難である。
その理由は、これらの非常に小さな物質のかけらは、他の様々な力の影響を受けやすく、予測不可能な方法で軌道を外れてしまうからである。量子系の運動が減衰する「ダンピング」という過程や、温度などの環境の影響によるノイズは、軌道が乱れる原因となる。
ダンピングとノイズの影響を打ち消す方法のひとつに、強度が変動する光や電圧のパルス波を量子系に利用して安定させる方法がある。このほど、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームは、人工知能を利用して、最適な方法でこのパルス波を発見し、マイクロマシンを適度に冷却して量子状態にし、その動作を制御することができることを発見した。
研究成果は、2022年11月に科学誌Physical Review ResearchにLetter論文として掲載された。
原子や電子より大きいマイクロマシンは、高温または室温に保たれているときには古典的な振る舞いをするが、エネルギーが最も低い状態、つまり物理学でいう「基底状態」まで振動モードを冷却することができれば、量子的な振る舞いをさせることが可能となる。その振動モードを超高感度センサとして利用して、力、変位、重力加速度などを検知したり、量子情報処理や量子コンピューティングに利用したりできるようになる。
研究論文の筆頭著者、OIST量子マシンユニットのポストドクトラルスカラー、であるDr. Bijita Sarmaは、「量子系から構築される技術は、計り知れない可能性を秘めている。しかし、その可能性を超精密センサの設計、高速な量子情報処理、量子コンピューティングなどの分野で活かすためには、これらのシステムを高速冷却し、制御する方法を学ばなければなならない」と説明している。
研究チームは、マイクロマシンを高温から超低温に冷却するパルス列を発見する手法として、機械学習(ML)による手法を考案した。人工のコントローラーを用いることで、人工知能(AI)による複雑なパルス列を従来の手法よりも素早く発見できることを実証した。制御を行うパルス波は、MLエージェントが自動的に発見する。この研究により、AIが量子技術の開発に有用であることが示された。
Dr. Sarmaは、「量子系を安定させるためには、制御を行うパルス波を高速にする必要がありる。われわれのAIコントローラーは、そのような偉業を達成する可能性を示している。われわれが提案した手法、つまりAIコントローラーを用いて量子を制御する手法は、高速量子コンピューティング分野にブレークスルーをもたらし、自動運転車のような自動運転量子マシンの実現に向けた第一歩となる可能性がある。それにより、将来の技術開発に多くの量子研究者が惹きつけられることを期待している」とコメントしている。
(詳細は、https://www.oist.jp)