October, 18, 2022, 京都--京都大学、松井隆太郎 エネルギー科学研究科助教、岸本泰明 同教授(現:名誉教授)、福田祐仁 量子科学技術研究開発機構上席研究員、神野智史 東京大学助教(現:日本原子力研究開発機構)らの共同研究グループは、水素クラスターと呼ばれる大きさがマイクロメートル(µm)程度の球状の固体水素に超高強度のレーザを照射することによって、メガ電子ボルトという高いエネルギー領域でエネルギーが揃った、純度100%の陽子ビーム(以下、レーザー駆動陽子ビーム)を繰り返し発生させることに成功した。
これまでの金属やプラスチックの薄膜ターゲットを用いたレーザ駆動陽子ビーム発生研究では、ターゲット表面に付着している不純物に由来する炭素イオンや酸素イオンもレーザ照射によって同時に発生するため、陽子のみを選択的に繰り返して発生させることが大きな課題だった。
今回、陽子ビームの元となる水素そのもので作られた水素クラスタをターゲットとして用いることにより、純度100%のメガ電子ボルトの陽子ビームを繰り返して発生させることに成功した。また、水素クラスターの大きさを直径約0.3µm程度にそろえることで、エネルギー変動を約11%に抑えた陽子ビームを発生させることができるようになった。
研究成果は、レーザ駆動陽子ビーム加速器の実現に向けて不可欠な要素となる、高純度で高いエネルギー安定性を持つ陽子ビームの発生を可能にする基盤技術となる。今後、従来の加速器で発生する陽子ビームのパルス幅(バンチ長)に比べて1000分の1以上短いという特長を活かして、これまで未知だった放射線による材料損傷の瞬間を捉えて分析することにより、材料劣化のメカニズムを解明し、放射線の影響が強い宇宙や原子力環境に耐えうる新材料開発などに貢献することが期待される。
研究成果は、2022年10月12日に、「Scientific Reports」にオンライン掲載された。
(詳細は、https://www.kyoto-u.ac.jp)