June, 3, 2022, 東京--光産業技術振興協会(光協会)の自動車・モビリティフォトニクス研究会(代表幹事:東工大教授 西山伸彦氏)が、2022年度の第1回討論会を5月18日(水)、AP品川(東京都港区)とオンラインでハイブリッド開催した。
同研究会は2017年、自動車・モビリティフォトニクスに関わる光センシングおよびその処理技術、HMI(Human Machine Interface)技術、通信技術、ヘッドライト・ブレーキライト等に関連する技術動向や産業動向に関する情報収集・意見交換を行うとともに、それらの将来展望について産業界の関係者を中心に学官を交えて討論することで、今後の研究開発の方向付けや産業・社会への具体的な貢献への端緒を創出して行くために設立されたもの。以来、斯界の第一人者を招き討論会を開催してきた。
今回のテーマは「将来のモビリティ戦略と実証実験」だ。講演では、「空飛ぶクルマ」として注目を集める、政府が推進する「空の移動革命」プロジェクトの他、MaaS(Mobility as a Service)やVPS(Visual Positioning System)、低速自動運転モビリティサービスなどの実証実験例が紹介された。
当日のプログラムは以下の通りで、その概要を次章で紹介する。なお、経済産業省の伊藤貴紀氏が講演で紹介した「空の移動革命」プロジェクトに関する内容は、政府の「空の移動革命に向けた官民協議会」の公開資料1)を参考にして編集した。
プログラム
◇開会挨拶:代表幹事 西山伸彦氏(東工大)
◆空の移動革命に向けた政府の取組:伊藤貴紀氏 (経済産業省・製造産業局産業機械課次世代空モビリティ政策室)
◆自動運転・MaaS実証実験の取り組み:大岸智彦氏(KDDI・技術戦略本部社会実装推進室モビリティサービスG)
◆低速自動運転モビリティサービスにおける遠隔・管制システム:渡辺仁氏 (ヤマハ発動機・技術開発統括部制御システム開発部プロセッシンググループ)
◆自動運転走行におけるVPS(Visual Positioning System)の取組紹介:照屋豊氏 (凸版印刷・情報コミュニケーション事業本部ソーシャルイノベーション事業部渉外チーム)
近未来のモビリティ
電動、垂直離着陸型で、今後遠隔操縦や自動・自律飛行を可能とする「空飛ぶクルマ」は、人口減少や少子高齢化、都市部への人口集中と地域経済の疲弊など、我が国が抱える様々な社会課題を解決するとともに、人々が日常生活の中において安全で自由な空の移動という豊かな体験を享受できる未来社会を実現すると注目を集めている。
「空の移動革命」は、(1)安全、安価で低環境負荷な都市交通サービスによって、迅速かつ快適な移動と新たな市場創出を実現するとともに、新たな生活スタイルや多様な働き方を後押しする。(2)山間部や離島を含めた地方の移動を活性化して、新たなサービスや雇用創出を実現し、自動・自律化の進展により輸送に係る労働力不足の軽減と、負担が増大する社会インフラの維持・管理コストを低減、生活の質や暮らし易さの向上に貢献する。(3)災害・緊急時の迅速な救急搬送や物資輸送を実現し、災害等に対し回復力のあるレジリエントな社会の実現に貢献する。(4)機体開発から運航サービスの提供、支援システムやポート等のインフラ整備、新規ビジネスへの波及といったエコシステム形成を通じ、新たな産業の創出と国際競争力強化に貢献する。(5)電動化や再生可能エネルギーの利用推進等によるグローバルな地球温暖化防止に貢献するなど、その波及効果は幅広い。
未来社会における「空飛ぶクルマ」実現のイメージも、(1)地方におけるオンデマンドな運航、都市部における高密度・高頻度な運航、都市間・地域間を結ぶ比較的長距離の運航など、多様な運航形態の実現。(2)主要都市における交通拠点からの二次交通、都市間交通、都市・地域の域内交通、救命救急や災害時等の緊急輸送、拠点間物流などの多様なユースケースの実現。(3)都市・地域の身近な場所における「空飛ぶクルマ」へのアクセスの実現。(4)「空飛ぶクルマ」を含めた空・海・陸のモビリティがシームレスに接続された MaaS(Mobility as a Service)の実現など、多岐に渡る。
一方、社会実装に向けた課題としては、安全性や経済性、環境性の確保の他、運航環境の整備、利便性と社会受容性の確保などが挙げられている。政府はこれらの課題解決に取り組むとともに、「空飛ぶクルマ」の社会実装を推進して「空の移動革命」実現を目指す計画で、2025年に開催される大阪・関西万博では、実際に「空飛ぶクルマ」を使用して、会場周辺を中心とする「遊覧飛行」と会場、空港、大阪市内等を結ぶ「二地点間輸送」が行われる予定だ。
鉄道やバス、タクシー、旅客船、旅客機、カーシェアなど、様々な形態の交通サービスを、一つの移動サービスに統合するのがMaaS(Mobility as a Service)だ。KDDIの大岸氏は、大量輸送が可能なバスの自動運転化は、将来的に無人のレベル4運行の実現を目指しているが、現状では遠隔監視対象やオペレーションの考え方が整備されている段階だと指摘。自動運転の運行管理システムの提供は、オペレーションコスト削減に寄与し、車両稼働率向上にも貢献するが、システム提供が期待される地域では住民団体による運用が想定されているので、システムの使い勝手の良さが求められると述べた。MaaSアプリについては、プラットフォーム機能の共通化を図れば、短期間で異なる地域に応用できるアプリ・システムの構築が可能との見解を示した。
ヤマハ発動機の渡辺氏は、現状の自動運転システムが対応できないシナリオを人間が支援すれば、早期に低速自動運転モビリティサービスの社会実装を実現できることが実証実験で明らかになったと述べた。また、遠隔支援には通信遅延やデータレートなど、通信性能が影響を与えるが、このうちの遅延については通信遅延だけではなく、カメラやディスプレイにおける遅延も重要だと指摘した。
汎用的な光学カメラから取得した画像情報を用いて位置測位や姿勢推定を行うVPSでは、事前に作製した3D地図とカメラから取得した画像をマッチングすることで、3次元空間ベクトルや3軸回転量を算出、位置測位や姿勢推定を行う。マッチング手法としては、3次元形状や画像の色情報の特徴点を抽出して比較する方法などがある。
凸版印刷の照屋氏は、3D都市モデルのテクスチャは明暗、形、エッジ、質感等が不明瞭な低コントラスト画像なので、VPSでのローカライズが失敗する傾向があると指摘。課題の解決には、テクスチャの品質向上や低品質テクスチャを補う技術開発を検討する必要があるとのことだ。
実証実験では、現実空間の車や人など、予測困難な自然物がVPS入力画面に映り込み、3D都市モデルマップと相違になり、ローカライズに影響を与えた可能性があるという。また、今回はシステム的にローカライズにおける細かな解析や調整ができなかったため、今後はシステム的に関与し、3D都市モデルマップへのフィードバックが可能で、天気や時間による色変化等への調整が可能なVPSの検討が必要と指摘した。
実験現場では、スマートフォンの処理能力とVPSの仕様からローカライズ試行が1回/秒に設定して実証が行われたが、モビリティ利用では、走行速度に応じてより多くのローカライズ頻度が求められる可能性が高いと予想されるため、ハードウェアやソフトウェアの高速化を図り、ローカライズ試行数の増加や連続性を検討する必要があるとのことだ。自動運転車輛の自己位置推定の精度向上に向けた試行を現在も継続して取り組んでおり、今後もその試行をさらに続けていく。
1)第8回空の移動革命に向けた官民協議会 資料1-4「目指すべき絵姿と中長期的な実装の流れ」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/air_mobility/pdf/008_01_04.pdf
次回討論会
2022年度の第2回討論会は7月20日(水)、センシング・イメージング関連をテーマに開催される予定だ。参加形式等、詳しい情報は下記URLの研究会ホームページで確認していただきたい。
http://www.oitda.or.jp/main/study/am/amstudy.html
(川尻 多加志)