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東大と慶大、世界最高速の連写カメラ実現

August, 21, 2014, Tokyo--東京大学と慶應義塾大学の研究チームは、様々な色の光を用いて動的現象の像を空間的にばらけさせ、そのあとで時間的に動画として再構成するという、既存の高速度カメラとは異なる動作原理に基づく超高速撮影法を提案し、実証した。
 この手法はSequentially Timed All-optical Mapping Photography(STAMP)と呼ばれ、スタンプが押されるように、撮影対象の像が全光学的プロセスを通じて次々とイメージセンサに入力され、取得される。この原理を実証するため6枚の連続画を取得するシステムを立ち上げ、65.4 Gfpsの撮影速度にてレーザアブレーションを、1.23 Tfps および4.37 Tfpsという撮影速度にてフォノン・ポラリトンの超高速な動的現象を一度の撮影(シングルショット)で連続的に取得することに世界で初めて成功した。
 新手法は、従来手法では捉えることができなかったナノ秒以下の超高速で複雑な動的現象を、連続画としてシングルショットで可視化することができる。また、巨視的なものから微視的なものの観察まで幅広く適用することが可能。具体的には、生体組織・細胞での衝撃波伝播過程の解析、化学反応、プラズマ現象、物質中の電子や熱の移動、スピン波や光の伝播などさまざまな超高速現象を観察できる可能性を持ち、基礎科学研究において今後、多くの未知の現象の発見や解明に貢献することが期待される。
 研究チームは、光を周波数領域で制御し、時間領域のダイナミクスを空間領域に射影することで動画を撮影するという、既存の高速度カメラとは異なる動作原理に基づく超高速撮影法を提案した。STAMP技術は、これまで100年以上にわたって行われてきた高速撮影技術開発における「デバイスの動作をより速く」という取り組みに対し、「最も速い(短い)光をより遅く」という逆のアイデアに基づいている。STAMPカメラでは、従来法の撮影速度を制限していた技術的要因を一切排除することで、これまで撮影できなかったナノ秒以下のダイナミクスを捉えられるようになった。
 原理を実証するために6枚の連続画を取得するシステムを立ち上げた。次のような順序で動的現象は撮影される。まず、超短パルス光源から発せられた広帯域の超短パルス光が、時間写像装置にて波長に応じて時間的に引き伸ばされ、波形が整えられる。それぞれのパルス列(STAMP照明光)は観察対象に次々に照射され、像情報を取得して行く。これら像情報を有したSTAMP照明光が、空間写像装置にて今度は波長に応じて空間的に分離される。この空間写像装置のため、高波長分解能・高透過効率・リアルタイム性を有する新しいマルチスペクトラルイメージング法も合わせて開発することで、多フレームかつ良好な画質を実現することができた。像情報を失うことなく空間的に分離されたSTAMP照明光は、露光状態に保たれたイメージセンサのそれぞれ異なる位置に入力される。このとき、どの時間がどの波長に対応しているのか、どの空間がどの波長に対応しているのかわかるため、波長を介してそれぞれの空間に飛び込んだ画像がどの時間に対応するのか知ることができる。これらの情報から、取得した画像を動画として再構成することで、完全なシングルショットでの超高速撮影が実現される。STAMPカメラは連続撮影の可能な高速度カメラであり、通常のビデオカメラのように何千枚・何万枚といったフレーム数を得ることは困難ではあるが、代わりに極めて高いフレームレートで超高速ダイナミクスを観察することが可能。また、極めて低い光エネルギーで撮影を行うため、観察が対象に与える影響を大幅に低減できる。
 この撮影システムを用いて、まずガラスでのフェムト秒レーザアブレーションの初期過程をピコ秒の時間スケールにて観察した。撮影では、光のエネルギーが急激にガラス表面に加えられ、プラズマ状態のプルームが成長していく様子が65.4 Gfpsという撮影速度にて捉えられた。続いて、結晶中のフォノン・ポラリトンのダイナミクスをフェムト秒の時間スケールにて観察。撮影では、線集光されたレーザ光が複雑な電子応答と格子振動を誘起し、次第にフォノンパルスが形成される様子が1.23 Tfps および4.37 Tfpsという撮影速度にて捉えられた。また、そのパルスが光速の約6分の1という速度で伝わっていく様子を微視的な視野で観察した。これらの超高速ダイナミクスを一度の撮影で連続的に捉えたのは世界で初めてのことになる。撮影システムは超高速の撮影に適しており、4.37 Tfpsより速いフレームレートも容易に実現できる。また、今回は原理を実証するために6フレームを撮影するシステムを構築したが、空間写像装置の改良によりもっと多くの枚数を取得することが可能。同様に画面解像度も使用しているイメージセンサの最適化により更に向上させることができる。
 研究チームによると、構成を最適化することでより優れた性能を有する撮影システムを実現することが可能。加えて、放射光や加速器など、まだ安定性が十分ではない光源を用いた観察においても、この原理によるシングルショット撮影は大きな効力を発揮すると考えられ、これらの特殊な光源を用いた新しい分野を創出することが期待される。

研究成果は、英国科学誌「Nature Photonics」(オンライン掲載2014年8月10日)に発表。
 研究チームの構成は、東京大学大学院理学系研究科/日本学術振興会の中川桂一特別研究員、同大学院工学系研究科の佐久間一郎教授、慶應義塾大学理工学部の神成文彦教授、東京大学大学院理学系研究科の合田圭介教授、他。