February, 17, 2022, 東京--光産業技術振興協会のフォトニックデバイス・応用技術研究会(代表幹事:上智大理工学部教授・下村和彦氏:写真2018年12月撮影)の2021年度第5回研究会が2月9日(水)、オンライン開催された。
同研究会は1986年、フォトニックデバイスとその応用技術の現状、動向、展望を話し合うとともに、産官学会員相互の情報交換と討論を通じて光産業技術の育成と振興を図るため設立され(当初の名称は「OEIC懇親会」、その後名称を現在のものに変更)、以来光デバイスから光通信システム、光実装、光インターコネクションなど、会員の要望に沿った多岐に渡るテーマを切り口とした定例研究会を年5回、一般公開スタイルのワークショップを年1回開催するなど、積極的に活動を続けてきた。
今回の研究会テーマは、通信以外の「新しい光技術」。水中LiDARやロボットフォトニクス、さらにナノ構造を利用した光ピンセットなど、近年注目を集める最新技術にスポットライトを当てた3本の講演が行われた。以下、その概要を紹介する。
水中、ロボット、ナノ領域への応用
「トリマティスが拓く水中LiDAR事業」島田雄史氏、吉本直人氏(トリマティス)
我が国の領海と排他的経済水域を合わせた広さは世界第6位。世界有数の海洋国家であり、それだけに海中・水中データの重要性も高まっている。インフラ管理のため水中点検を担ってきた職業ダイバーのなり手は激減しており、地球環境保護のための水中環境調査や遅れていると言われる漁業のスマート化も急務だ。
水中では青から黄色までの可視光しか通らない。この中で青色LED/LDは日本発の世界に誇るべき技術。島田氏は、海中・水中環境の高精度デジタル化手段として注目を集める、青色光無線技術を使用した水中LiDARを紹介、海中・水中産業活動の中での課題やデジタル化による新たなビジネスチャンスについて語った。
ビジョン実現のため電子情報技術産業協会(JEITA)「共創プログラム」の第一弾として設立されたのが「ALAN(Aqua LAN)コンソーシアム」だ。音波など限られた手段しか使えない水中環境は「最後のデジタルデバイド領域」。同コンソーシアムでは、水中環境をLocal Area Network(LAN)と位置づけ、柔軟なネットワークを目指し、青色を中心とした光無線技術の研究開発を行っている。先ずは水中での送受信技術のブラッシュアップから始め、世界をリードし新たな市場創出や社会課題の解決を目指す。講演では、その概要と活動状況が報告された。
講演の後半は吉本氏が引き継ぎ、ALANメンバーの同社が技術開発している耐圧容器と組み合わせた水中LiDARや水中ロボットに搭載した水中3Dスキャン測定実験、社内簡易水中実験などが報告された。
1Gbpsで100m超の通信を目指す水中光無線通信に関する最新の研究開発についても紹介され、水中光伝搬の課題としては、距離が稼げる微細ビーム使用時ではマルチビーム化、揺らぎに強く補足が緩和できる拡散ビームにおいてはPDのアレイ化(大口径化)が重要で、これらについては試作機を作って実験を実施、光源においては今後、多重化や多値変調などが求められるとの考察を示した。
「ロボットフォトニクス技術の概要と将来展望」村井健介氏(産総研)
レーザー学会・技術専門委員会「ロボットフォトニクス」の主査でもある村井氏は、光技術(フォトニクス)とロボット技術(ロボティクス)の融合技術「ロボットフォトニクス」は、研究開発がさらに進むべき技術領域だと指摘する。
少子高齢化が急速に進む我が国では、ロボットが問題解決の切り札とも言われている。このような状況の中、ロボット技術は人型(ヒューマノイド)のみならず、掃除ロボットやドローン、さらには自動車へと応用の幅を拡げている。フォトニクスはLiDARやイメージセンサなど、様々なデバイスを通してロボット技術に貢献しており、まさに必要不可欠。フォトニクス抜きには、未来のロボットは成り立たないと言っても過言ではない。
温度計測(サーモカメラ)、分光計測(ハイパースペクトルカメラ)、形状計測(パターンプロジェクション)、高速運動計測(高速度カメラ)、モーション計測(イベントカメラ)、レーザ測域センサ(3D計測)などの光センシング、除去、接合、表面改質などの光加工、新型コロナウイルスまん延で注目を集める紫外線照射ロボットといった光処理、プロジェクションマッピングなどの光プロジェクションや自動車用光通信など、村井氏はロボットフォトニクスにおける多様なシーズとニーズを紹介、講演の最後では、自身の研究でもあるプラズモン現象を利用する、誘電体薄膜を金属薄膜で挟んだMIM型やMGM型の力覚センサについても解説した。
「ナノ構造を利用した光ピンセット技術の開発と展望」東海林竜也氏(神奈川大)
金属ナノ粒子や高分子鎖、DNA、タンパク質、有機分子などを光ピンセットによって直接捕捉できるのか?溶液中に拡散するナノ粒子を光ピンセットで捕捉、収集できれば、結晶化のような相転移や凝集誘起発光、化学反応をも起こせる可能性があると言われている。
ところが、従来の集光レーザ型光ピンセットでは、ナノ粒子の光捕捉は至難の業。100nmの粒子を捕捉するのに比べ10nmのそれを捕捉する場合、光圧(いわば光ピンセットの握力)は1,000分の1まで弱くなってしまう。逆を言うと1,000倍ものレーザ出力が必要になる。
東海林氏は、光圧化学(光圧に基づく化学現象の制御)実現に向け、金属や半導体のナノ構造を利用した新しい光ピンセット技術の研究開発を進めている。具体的には、プラズモンにより増強された光電場によって強い光圧がナノ粒子に作用するプラズモン光ピンセットやシリコンナノニードル構造(ブラックシリコン)を用いたNASSCA光ピンセット、レーザを使わず水銀ランプのインコヒーレント光によって粒子を捕捉するNASTiA光ピンセットを作製、高分子ナノ微粒子やDNAなどを集めるなど、興味深い現象を見出すことに成功した。
次回のテーマは光通信用デバイス
次回2022年度の第1回研究会は、光通信用デバイスを切り口として6月1日(水)の午後1時より、機械振興会館で開催される予定だ。
久々に実際の会場で行われることになるが、新型コロナウイルスの今後の感染状況によっては、オンラインに変更される可能性もあるので、最新の情報は下記研究会ホームページにて確認していただきたい。
http://www.oitda.or.jp/main/study/pd/pdstudy.html
(川尻 多加志)