February, 7, 2022, 東京/京都--光遺伝学は特定の神経細胞の活動を「光」によって制御する革新的技術であり、今や神経科学において必須の技術となっている。光遺伝学には光受容たんぱく質であるチャネルロドプシンがツールとして利用されており、日々新規の光遺伝学ツールが発見、改良されている。
近年自然界から発見されたチャネルロドプシンであるChRmineは、高いイオン電流、高い光感受性、長波長光によって活性化されるという光遺伝学ツールとして非常に強力な性能を有しているだけでなく、機能はチャネルロドプシンであるにも関わらず、アミノ酸配列はポンプ型ロドプシンと近いという興味深い特徴を有していた。しかしChRmineがなぜイオンチャネルとして働くことができるのかは不明だった。
今回、野村紀通 医学研究科准教授、岩田想 同教授、岸孝一郎 東京大学修士課程学生、加藤英明 同准教授らのグループは、クライオ電子顕微鏡を用いてChRmineの立体構造を決定することに成功した。その結果、ChRmineは大域的にはポンプ型と良く似ている一方、局所的には従来のポンプ型、チャネル型には見られない構造的特徴を複数有しており、このことがChRmineのユニークな分子機能の決定に寄与しているということがわかった。さらに得られた立体構造の知見から、長波長光によって活性化されるというChRmineの性質をさらに向上させた改変型ChRmineを開発し、3色の可視光を利用して複数の神経細胞集団を同時に光操作・計測するという、より発展的な光遺伝学実験を可能にした。
研究成果は、多様なチャネルロドプシンがイオンチャネルとして機能する仕組みに対する理解を深めたというだけでなく、新規ロドプシンの設計や創製に対する道標、さらに神経科学分野へ強力なツールを提供したという点で、神経科学、医療の発展につながることが期待される。
研究成果は、2022年2月3日に、国際学術誌「Cell」のオンライン版に掲載されました。
(詳細は、https://www.kyoto-u.ac.jp)