November, 8, 2021, 札幌--北海道大学電子科学研究所の三澤弘明特任教授及び同創成研究機構の石 旭准教授らは,中国北京大学と共同で,金ナノ粒子のペアを一列に規則正しく配列した人工構造(バルク)の端(エッジ)にペアではない単一金ナノ粒子を配置して構造全体に光照射すると,エッジの単一粒子に近接場とよばれる光が局在化するトポロジカルエッジ状態が発現することを初めて明らかにした。また,エッジ状態が消滅する位相緩和時間が,バルクの金ナノ粒子ペアの個数に依存して長くなり,ある個数以上で飽和することを見出し,エッジ状態がバルク状態とのエネルギー振動を経て形成することを検証した。
今回,金の人工ナノ構造で観測された光のトポロジカルエッジ状態は,2016年のノーベル物理学賞の受賞で注目された「トポロジカル絶縁体」とも関連が深く,物質内部は電気を流すことができない絶縁体でありながら,エッジ(表面や端)では電気を流せる金属と同じ性質を持つというトポロジカル絶縁体のとても不思議な特性を利用している。この特性を金の人工ナノ構造に展開し,エッジに近接場が局在化する過程を1フェムト秒(fs)の時間分解能と数nmの空間分解能という極めて高い精度で可視化するとともに,シミュレーションによって局在化のメカニズムの検証にも成功した。
光のトポロジー効果は,光の散乱損失や構造の乱れに耐性のある堅牢な光学構造を提供するため,光情報伝送や量子コンピュータなどの新しい光デバイスを実現するために有用と考えられている。現在,金のナノ構造を用いた光トポロジカルエッジ状態の研究は世界中で盛んに行われているが,極めて早い時間で生成・消滅するため,時間領域における研究はほとんど進んでいなかった。今回の時間領域の研究により,どのような人工構造を用いれば,近接場を効率良く狙ったナノ空間に速く局在化させるかなどの理解が深まり,新しい光デバイスの構築に繋がるものと期待される。
研究成果は,2021年10月22日(金)公開のNano Letters誌にオンライン掲載された。
(詳細は、https://www.hokudai.ac.jp)