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東京大学、超短パルス強レーザ場で、超高分解能分光計測に成功

September, 27, 2021, 東京--東京大学大学院理学系研究科の安藤助教、岩崎教授、山内教授らは、独自に開発した強レーザ場超高分解能フーリエ変換(strong-field ultrahigh resolution Fourier transform: SURF)分光法によって、希ガス原子イオンであるアルゴン(Ar)・クリプトン(Kr)の一価イオンのスピン軌道分裂エネルギーを10^-7の精度で決定することに成功した。

通常の高分解能分光では、光の吸収・発光過程を観測することによって、分子・原子のエネルギー準位を決定する。しかしながら、今回研究対象とした量子準位間では、光の吸収と放出が起こらないことから、従来の分光手法では、高精度でエネルギーを決定することは困難だった。

SURF分光では、原子・分子系のいくつかの固有状態の「重ね合わせの状態」を超短パルスレーザ光(ポンプパルス光)によって生成する。「重ね合わせの状態」は、波束と呼ばれるもので、もともとの固有状態どうしのエネルギー差に対応する周期で時間発展する。そのため、遅延時間の後、もう一つの超短パルスレーザ光(プローブパルス)を照射して、その波束の運動の時間発展をプローブすることができれば、そのシグナルの振動の周期から、固有状態のエネルギー差を決定することができる。

研究では、ポンプパルスによってAr+ および Kr+ に波束を生成し、その波束の振動運動を 500 ps (1 ps = 10-12 s) の遅延時間の間観測し続け、そのデータのフーリエ変換を行うことによって、スピン軌道分裂のエネルギー幅を10-7の精度で決定した。この精度はこれまでの高分解能分光計測によって得られていた値の精度よりも、Ar+の場合は6倍、Kr+の場合は50倍高いものだった。

SURF分光計測では、対象となる固有状態間の光学遷移を誘起する必要は無く、それらの固有状態の重ね合わせを生成する。したがって、対象となる原子・分子種の固有状態のエネルギー差に合わせて別々の光源を用意する必要がないため、SURF分光は、さまざまな原子・分子系に適用することができる汎用性を持っている。さらに、計測の分解能は、基本的には遅延時間を長くすればする程高くすることができるため、これまで観測が困難であった極めて小さな固有状態間のエネルギー差を高精度で決定することが可能であり、新しい超高分解能分光手法として、そのさまざまな現象への応用が期待されている。

研究成果はPhysical Review A誌のEditors’ Suggestionに選ばれた。Editors’ Suggestionに選ばれた論文は、特に関心を持たれている重要な分野において、読者が読む価値のあるわかりやすく記述された論文として雑誌のトップページに掲載された。
(詳細は、https://www.s.u-tokyo.ac.jp/)