September, 10, 2021, Jülich--ユーリッヒ研究機構(Forschungszentrum Jülich)の物理学者は、量子効果を研究するために独自の磁気冷却走査型トネリング顕微鏡(STM)を開発した。
STMは、原子精度で材料の画像を撮り、個々の分子または原子を操作するために使える。研究者は、長年、その装置を使ってナノスケール現象の世界を研究してきた。ユーリッヒ研究機構の物理学者による新しいアプローチは、量子効果を研究するためにその装置利用の新たな可能性を実現しつつある。磁気冷却により、同チームのSTMは、可動部分なしで機能し、30ミリケルビンの極低温でほぼ振動がない。同装置により研究者は、量子材料の優れた性質を明らかにすることができる。量子材料は、量子コンピュータやセンサの開発にとって極めて重要である。
物理学者は、絶対零度付近の温度範囲を研究にとって特にエキサイティングと考える。量子物理学の法則が作用し始め、物質の特別な特性を明らかにする。すると電流が抵抗なしで自由に流れる。もう1つの例は、超流動という現象。個々の原子が融合して集団状態になり、摩擦なしに互いに通り過ぎる。
これら極低温は、量子コンピューティングのための量子効果の研究と利用にも必要とされている。ユーリッヒ研究機構だけでなく世界中の研究者が、この目標を全速力で追究している。量子コンピュータは、あるタスクでは、従来のスーパーコンピュータを遙かに凌駕している。しかし、開発はまだ初期段階である。主要な課題は、量子ビットを安定にする複雑なアーキテクチャを造る材料とプロセスの発見である。
ユーリッヒ研究機構のRuslan Temirovは、「われわれのもののような多用途顕微鏡は、この魅力的なタスクに選択すべきツールである、多くの多様な方法で個々の原子や分子レベルで物質を可視化、操作できるからである」とコメントしている。
何年もの研究でチームは、この目的のためにSTMに磁気冷却を導入した。今日まで研究者は、2つのヘリウム同位体の混合に頼って顕微鏡をそのような低温にしていた。「操作中、この冷却混合が細いパイプを連続的に周回し、それが背景雑音を大きくする」とStefan Tautzは説明する。
それに対して、ユーリッヒの顕微鏡の冷却デバイスは断熱消磁プロセスに基づいている。原理は新しくない。それは1930年代に初めて、研究室で1ケルビン以下の温度を達成するために使用された。顕微鏡の動作では、それはいくつかの利点がある。「この方法で、われわれは新しい顕微鏡を冷却する。電磁コイルを通過する電流の力を変えるだけでよい。したがって、われわれの顕微鏡は、可動部分はなく、特に振動フリーである」(Stefan Tautz)。
ユーリッヒの研究チームは、この技術を使ったSTMを初めて構築した。「新しい冷却技術には、実用的な利点がいくつかある。画像品質を改善すると共に、装置全体のオペレーションと全般的なセットアップを簡素化する」(Stefan Tautz)。モジュラー設計によりユーリッヒの顕微鏡は、技術的進歩に対して開放されており、アップグレードが簡単に実装できる。
「断熱冷却は、STMにとって実に量子飛躍(quantum leap)である。利点が極めて大きいので、われわれは現在、次のステップで商用プロトタイプを開発している」(Stefan Tautz)。量子技術は現在、研究で大きく注目されている。そのような装置に対する多くの研究グループの関心は、間違いない。
(詳細は、https://www.fz-juelich.de)