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スーパーサイクルに入った半導体産業
多元技術融合光プロセス研究会、令和3年度第1回研究交流会を開催

August, 2, 2021, 東京--ワクチン接種は進んでいるものの、感染が収まらない新型コロナウイルス、COVID-19。集団免疫を獲得したとしても、その社会は一定数の感染者を許容せざるを得ない、COVID-19と共存する「ウィズ・コロナ」という言葉が相応しい姿になると思われる。そのような状況の中で社会活動の在り方をどう変化させるのか、我々は大きな課題を突きつけられている。
 より懸念されるのが中国の動向だ。COVID-19の封じ込めにいち早く成功したことで、自らの体制が民主主義より優れたシステムだと自信を深め、力ずくで進めてきた監視社会や海外への拡張政策をさらに押し通すようだ。21世紀は民主主義VS専制・独裁主義という、ほんの少し前に抱いていたバラ色の未来予想図からは想像もつかない時代に突入した。人類は後の世界史に刻まれるような大きな転換期に立たされている。
 7月8日(木)にオンライン開催された光産業技術振興協会・多元技術融合光プロセス研究会(代表幹事:杉岡幸次氏<理研>)の令和3年度第1回研究交流会では、COVID-19と米中デカップリングの影響を交えた半導体産業の展望やレーザ加工に関する最新動向が紹介された。
 同研究会は、光源、光学系、材料や構造、形態、物理化学反応、前後工程、制御技術や計測・分析技術など、これまで出会うことのなかった多元的な技術を効果的に融合して、有効な光プロセス技術を開発するための議論の場を提供することを目的に設立され、年度ごとに5回、斯界のエキスパートによる講演を中心とした研究交流会を開催している。
 今回の全体テーマは「光応用プロセスの基礎と先端技術」。下記5件の講演と会員による話題提供1件が行われたが、本稿では、野村證券の和田木哲哉氏による講演「半導体業界展望with COVID-19&米中デカップリングのインパクト」を報告する。

プログラム 
◆代表幹事挨拶:杉岡幸次氏(理研)
◆講演1「レーザー加工の最新技術と市場動向:Quo Vadis」家久信明氏(フォトンブレインジャパン)
◆講演2「半導体業界展望with COVID-19&米中デカップリングのインパクト」和田木哲哉氏(野村證券)
◆講演3「ハイブリッドArF エキシマレーザによる難加工材の加工」老泉博昭氏(ギガフォトン)
◆講演4「Fundamentals and applications of 3D machining/printing with ultra-short laser pulses」Saulius Juodkazis氏(Swinburne University of Technology/東工大)
◆講演5「Laser printing of 3D proteinaceous microstructures」Daniela Serien氏(産総研)
◆話題提供「LiDAR に貢献する光半導体受光素子」加藤正哉氏(浜ホト)

再起動したムーアの法則 
 半導体産業は、2017年からスーパーサイクルに入ったと言われる。事実、半導体製造装置市場は2016年から急伸、その要因の一つが、サーバ用ストレージがHDDから一気にフラッシュメモリに代わったことだ。2014年に10%程度だったものが、2018年には30%台半ばまで伸長した。サーバ向けDRAMも同様に伸びている。もう一つの要因はスマホで、スマホ市場は近年成熟化したが、スマホ用半導体は5G向けが伸びたことで成長市場となっている。
 ロジック半導体においては、2019年から「ムーアの法則」が再起動した。背景には、EUVLの実用化で高集積化が加速、スマホメーカはコスパよりもチップが小さく高機能化が可能であることから、競争力確保のため高価格にも関わらずこれを大量注文した。
 このことは、半導体の微細化による高速化と低コスト化が生産能力拡張や生産革新投資を促すという従来のサイクルから、高コストではあるが高集積化が可能なチップの大量注文が微細化投資に繋がるというサイクルに変わったことを示している。技術トレンドとしては、微細化は2028年以降3D化へ進み、電源供給配線についてはウエハ表面により多くのゲートを集積化でき、IR遅延も低減できる裏面配置に進む。
 COVID-19後の世界におけるハイテク機器市場(2025年)は推定で、DX関連が6.6兆円、仮想現実などのXR関連3.5兆円(長期的には100兆円)、製造現場におけるロボット関連が5.3兆円、神経や筋肉と接続でき、表情表現も可能で、歩行制御などを行うアバター関連は1.5兆円増えるという。実現には、低遅延(大容量/超高速)、常時接続、セキュリティ強化といった通信インフラの強化・充実が求められるので、ハイテク市場はますます拡大していく。
 2021年の半導体装置市場は30%増が予想されている。TSMCは投資額を128億ドル増やすとしており、メモリ投資も30%増える。中国のファウンドリも投資を復活させる。プラス成長は2022年も維持され、メモリ投資は減る可能性はあるものの、減った分はIntelが吸収するという。中国は引き続き投資を増やし、TSMCは設備投資を50億ドル増やして北米等に工場を建設する。Samsung Electronicsや他のファウンドリも大型投資を計画しており、市場は拡大を続ける。ただし、戦略投資が多いので計画変更の可能性もある。夏頃に変調の兆しが現れないか、注意が必要だという。
 なお、TSMCが米国で工場を建設する背景には、米中の覇権争いに加え、台湾における事業立地のリスクもあるようだ。台湾では半導体に使用する工業用水が不足しており、電力不足はより深刻だ。電力消費の多いEUVLの導入(年間30台の導入を計画)によって、電力不足はさらにひっ迫すると見られている。対応のためTSMCは各国に工場を分散建設する計画で、この動きは半導体設備市場にとってプラスとなる。
 中国の半導体市場に目を移すと、バイデン政権になってから中国の半導体メーカを潰しにかかる具体的な新しい政策は出ていないという。米国の輸出規制はSMIC(中国のファウンドリ)やHuaweiなどに向けた先端装置に限定されており、それ以外の中国向け輸出は激増している。実際、中国の半導体市場は過去最大となり、地域別でも最大の市場になった。今後も大きく成長する見通しだ。さらに、中国政府は15~20兆円の半導体貿易赤字を埋めるため半導体投資のモチベーションを持ち続けており、そのため中国の製造装置市場は拡大を続ける。
 自動車業界に起こったような半導体不足への対処法としては、ユーザによるメーカの特定ラインの買い上げや罰則付き長期購入契約、契約期間の長期化などが考えられていたが、TSMCはこのほど契約期間を、これまでの1年から3~5年にするという方針を打ち出した。半導体製造装置メーカや材料メーカにとっては価格変動率が低下することになり、製造リスクが減り利益率を上げるので歓迎される流れだと考えられている。
 データセンタの消費電力低減は急務だ。カーボンニュートラルの動きにも目を離せない。GAFAは事業活動用電力をすべて再生可能エネルギーで調達する方向で、Appleは取引先に100%の再エネ調達を要求するという。欧米においては再エネがグリッドパリティに到達しているので、彼らにとって再エネ調達は痛くも痒くもない。一方、再エネ発電コストの高い我が国は対応が迫られる。そこで注目されるのはパワー半導体だ。半導体のメインプレーヤとしての地位を失った欧州の各メーカは復活を目指し、300mmラインへの投資をこぞって強化している。
 サーバ自体の消費電力低減も重要となり、その実現にはCPUへのアクセラレータの導入、電力の2/3が配線で消費されるメモリにはシリコンフォトニクスやGPU機能の一部をメモリ内に取り込むAiM(Accelerration in Memory)が導入され、一部メモリの不揮発化、HDDからフラッシュメモリへの転換などが有効な対策と言われている。
 データセンタ用プロセッサの第3の波と言われているのがDPU(Date Processing Unit)だ。DPUは、現場でプログラムが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)を用いてセキュリティ関連のタスクなどをオフロード処理して、CPUの負荷を下げるというものだが、IntelやAMD、NVIDIAなど、サーバ用プロセッサメーカは軒並みCPU、GPU、FPGAを揃えようとしている。
 オープン・チップデザイン・プロジェクトである「RISC-V」への期待も高まっており、「RISC-V Foundation」メンバーは300社を超えた。ライセンスフリーが拡大して行けば、半導体バリューチェーンにおいて、他の取り分が増えるので好ましい動きと言えそうだ。
 EUVL装置市場の中期見通しでは、需要台数はTSMCが30台、Samsung Electronicsが10台程度と見られており、SK hynix、NANYA、MicronなどのDRAMメーカも導入を決定している。Intelもペリクルの完成を受け導入を検討している。TSMCも同様で、EUVLのダブルパターニングの導入も検討するという。なお、ペリクルはASMLと三井化学がポリシリコンベースのものを共同開発、三井化学で量産を開始した。ImecとリンテックはCNTのペリクルへの有用性を実証した。
 半導体微細加工プロセスの開発競争では、TSMCがIntelを大きくリードする。Intelがこだわった複数国の工場において同じ製造装置とプロセスで製造を行う垂直立ち上げ型の「Copy Exactly」方式は機能しなくなった。重力を含めた各国の自然環境の違いによって、微細加工プロセスは大きな影響を受けるからだ。
 IntelはAMDにもチップレットで差をつけられた。チップレットは、チップを構成する微細なパーツをレゴのように組み合わせてプロセッサを作るという発想で、チップ面積の縮小、KGD(Known Good Die:品質保証された良品ベア・チップ)使用による大幅な歩留まり向上、機能ブロックごとの適正電力配分による消費電力低減、各機能ブロックに最適なプロセスによるデバイス製造とパフォーマンスの向上、高集積化・高速化といった特長を持つ。IntelはAMDにシェアを奪われつつある。
 半導体業界は、2020年代中頃には第3次スーパーサイクルの時代を迎え、2030年代初頭には第4次スーパーサイクルに突入、IoT黄金時代を迎えるという。「ヘジテイトすることなく開発活動、事業活動に取り組むべきだ」。和田木氏はこう主張した。

次回研究会
 第2回の研究交流会は9月8日(水)、オンラインで開催される。全体テーマは「新レーザー・光源」で、世界最高出力パルスレーザによる新加工技術、高ビーム品質青色半導体レーザ、分子振動を狙い撃ちした中赤外レーザ光源開発と高効率高品質樹脂加工、高出力深紫外ピコ秒レーザ、Yb:YAGによる高出力レーザ増幅などが取り上げられる予定だ。各講演は変更される場合もあるので、下記URLで最新の情報をチェックして頂きたい。
http://www.oitda.or.jp/main/study/tp/tp.html

(川尻 多加志)