July, 9, 2021, Cambridge--ケンブリッジ大学の研究チームは、リチウムイオンバッテリーの内部を見て、バッテリーの充電と放電にともなうリチウムイオンの動きをリアルタイムで追跡する簡素なラボベース技術を開発した。これは、これまで可能でなかった技術である。
ローコスト技術を使って研究チームは、速度限界プロセスを特定した。それは、対処すれば、ほとんどのスマートフォンやラップトップのバッテリーを5分程度で充電できるようにする。
ケンブリッジ大学の研究者によると、その技術は、既存バッテリー材料の改善のみならず、次世代バッテリーの開発も加速する。研究成果は、Natureに発表された。
リチウムイオンバッテリーには明白な利点がある、相対的に高エネルギー密度、他のバッテリーやエネルギー蓄積手段と比較して長寿命である。しかし、それらは加熱、あるいは爆発する可能性もあり、製造が比較的高価である。加えて、そのエネルギー密度は、石油には遠く及ばない。これまで、こうしたことのために、リチウムイオンバッテリーは、電気自動車や太陽光発電用のグリッドスケール蓄積で利用が普及するには至っていない。
ケンブリッジ大学のCavendish Laboratoryの論文の共著者、Dr Christoph Schnedermannによると、新材料で優れたバッテリーを作ったり、現行のバッテリーを改善するには、その内部で何が起こっているかを理解する必要がある。
リチウムイオンバッテリーを改善し、充電を高速化するには、機能材料で起こっているプロセスを実際的条件で、リアルタイム追跡して理解する必要がある。現在、これには高性能シンクロトロンX線あるい電子顕微鏡技術が必要である。これらは時間がかかり、しかも高価である。
「バッテリー内部で起こっていることを実際に調べるために、基本的に、顕微鏡に2つのことを同時に実行させる必要がある。数時間でバッテリーの充電と放電を観察する必要があるが、同時にバッテリー内部で起こっている高速プロセスを捉える必要がある」と論文の筆頭著者でCavendish Laboratory のPh.D学生、Alice Merryweatherは説明している。
ケンブリッジチームは、作用中のこれらのプロセスを観察するために干渉散乱顕微鏡という光学顕微鏡技術を開発した。この技術を使い、チームは、コバルト酸リチウム(LCO)の個々の粒子の充電と放電を散乱光の量を計測することで観察することができた。
チームは、LCOが、充電-放電サイクルで一連の相転移を経験することも観察することができた。LCO粒子内の相境界は、リチウムイオンの出入にともなって動き、変化する。研究チームは、バッテリーが充電中か放電中かに依存して移動する境界のメカニズムが異なることを確認した。
「リチウムイオンバッテリーには様々な速度限界があることが分かった。それが充電中あるいは放電中であるかどうかに依存する」と研究リーダー、Dr Akshay Raoは話している。「充電しているとき、速度は、リチウムイオンが活性材料の粒子をいかに速く通過できるかに依存する。放電中の時には、その速度は、エッジでイオンがいかに速く挿入されるかに依存する。これら2つのメカニズムを制御できれば、われわれはリチウムイオンバッテリーの充電を著しく高速化できる」。
「リチウムイオンバッテリーが数十年前から利用されていることを考えると、それらについて知るべきことの全てを知っていると考えるが、それは事実ではない。この技術は、それが充電-放電サイクルをいかに速く通過できるかをわれわれに見せてくれる。われわれが実際に期待していることは、その技術を使って次世代バッテリー材料を研究することである。われわれがLCOについて学んだことを使って新材料を開発することができる」とSchnedermannは話している。
「その技術は、固体材料におけるイオン動力学を見る極めて一般的な方法であるので、ほぼどんなタイプのバッテリー材料にもそれを使うことができる」と研究を共同指導している、ケンブリッジYusuf Hamied化学学部、Clare Grey教授はコメントしている。
その方法の高スループット特性により多くの粒子が電極全体でサンプリングでき、さらにバッテリーが故障したとき、あるいはその防ぎ方の研究も可能になる。
「われわれが開発したラボベース技術は、われわれがバッテリーの高速に動く内部構造について行くために、技術速度に大きな変化をもたらす。われわれが、相境界の変化をリアルタイムで実際に見ることができることは、実に驚きであった。この技術は、次世代バッテリーの開発でパズルの重要な1ピースとなりうる」とSchnedermannはコメントしている。
(詳細は、https://www.cam.ac.uk)