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新しい脳のようなコンピューティングデバイス、人の学習をシミュレート

May, 20, 2021, Nottingham--研究チームは、関連付けで学習できる脳のようなコンピューティングデバイスを開発した。

有名な生理学者Ivan Pavlovがイヌを条件付けてベルとエサを連想させる方法と同様、ノッティンガム大学と香港大学の研究チームは、回路を条件付け、光と圧力を関連づけることに成功した。
研究成果は、Nature Communicationsに発表された。

そのデバイスの秘密は、新しい有機電気化学「シナプストランジスタ」にある。これは、ヒトの脳のように情報を同時に処理、蓄積する。研究チームは、そのトランジスタが、時系列で学習する記憶に基づき、ヒトの脳の短期および長期のシナプスの柔軟性を模擬できることを実証した。

その脳のような能力で、新しいトランジスタと回路は従来のコンピューティングの限界を潜在的に克服できる。これには、エネルギーを奪い取るハードウエア、同時に多数のタスクを処理する制約的な能力も含まれる。その脳のようなデバイスは、障害耐性も高く、一部のコンポーネントが故障しても滑らかに動作を続ける。

「現代のコンピュータは傑出しているが、ヒトの脳は、ある複雑で非構造化タスクでは簡単にそれを上回る、例えばパタン認識、運動制御、多感覚統合などである。これはシナプスの柔軟性によるものである。これが、脳のコンピュータパワーの基本的ビルディングブロックである。これらシナプスにより脳は、高度にパラレルに、耐障害性、エネルギー効率よく動作することができる。われわれの研究では、生体シナプスの重要機能を模擬する、有機、プラスチックトランジスタを実証する」とRivnayは話している。

Rivnayは、Northwestern’s McCormick School of Engineering生体医用工学准教授。同氏は、香港大学、機械工学教授、Paddy Chanとともに研究を主導している。Xudong Jiは、論文の筆頭著者、Rivnayグループのポスドク研究者。

従来のコンピューティングの問題
 伝統的な、デジタルコンピューティングシステムは、別々の処理と蓄積ユニットを持つので、データ量の多いタスクは大量のエネルギーを消費する。人の脳におけるコンピューティングとストレージプロセス統合からヒントを得て、近年、研究者は,ヒトの脳のように動作するコンピュータの開発を探求してきた。多くのデバイスが、ニューロンネットワークのように機能する。

「われわれの現在のコンピュータシステム動作法は、メモリとロジックが物理的に分離されている。コンピュテーションを行い、その情報をメモリユニットに送る。次に、その情報を引き出したいときはいつでも、それを読み出さなければならない。それらの2つの分離機能をいっしょにできれば、われわはスペースとエネルギーコストを節約できる」とJiは話している。

現在、メモリ・レジスタ、つまり”memristor”は、最も開発が進んだ技術であり、統合された処理とメモリ機能を実行できるが、メムリスタはエネルギーコストがかかるスイッチング、生体適合性が劣るという問題がある。これらの欠点があるので研究者は、シナプストランジスタに眼を向けた、特に有機電気化学シナプストランジスタである。これは、低電圧動作であり,連続的にメモリをチューニングでき、生体アプリケーションへの適合性は高い。しかし、課題は存在する。

「高性能有機電気化学シナプストランジスタでさえ書き込み操作を読み出し操作から切り離す必要がある。したがって、メモリを保持したければ、それを書き込みプロセスから分離しなければならない。これは、回路つまりシステムへの統合をさらに複雑にする」(Rivnay)。

シナプストランジスタの動作方法
 これらの課題を克服するためにノースウエスタンと香港大学は、イオンをトラップすることができる有機、電気化学トランジスタ内の伝導性、プラスチック材料を最適化した。脳内では、シナプスは、ニューロンが神経伝達物質という小分子を利用して、信号を他のニューロンに伝達することができる構造である。シナプストランジスタでは、イオンは神経伝達物質と同じように動作し、ターミナル間で信号を送り人工シナプスを形成する。トラップされたイオンからの蓄積データを維持することでそのトランジスタは、以前の活動を記憶し、長期柔軟性を発展させる。

研究チームは、シングルシナプストランジスタを神経形態学的(ニューロモルフィック)回路に接続し、連想学習をシミュレートすることでそのデバイスのシナプス挙動を実証した。チームは、圧力と光センサをその回路に加え、2つの関連のない物理的入力(圧力と光)を相互に関連付けるように回路をトレーニングした。

恐らく、連想学習の最も有名な例はパブロフのイヌである。イヌは、食べ物に直面すると自然によだれを垂らす。そのイヌをベルと食べ物を関連するように条件付けた後、イヌはベルの音を聞くとよだれ垂らし始める。神経形態学回路では、研究者は指圧で圧力を加えることで電圧を活性化した。その回路が光と圧力を関連するように条件付けるために研究チームは、まずLED光バルブからのパルス光を印可し、次に直ぐ圧力を加えた。このシナリオで、圧力は食べ物であり、光はベルである。デバイスの対応するセンサは、両方のインプットを検出した。

1回のトレーニングサイクルの後、回路は光と圧力の最初の接続を実現した。5回のトレーニングサイクルの後、回路は、光と圧力を強く関連付けた。光は、それだけで信号を始動させることができた、つまり「無条件反応」である。

将来のアプリケーション
そのシナプス回路は、プラスチックのようなソフトポリマでできているので、フレキシブルシート上に直ぐに製造可能であり、ソフトな、ウエアラブルエレクトロニクス、スマートロボットおよびインプラント可能デバイスに簡単に組み込むことができ、生きた組織、脳とさえもインタフェースがとれる。

「われわれのアプリケーションは概念実証であるが、提案した回路は、さらに拡張して、より多くのセンサ入力を含むようにし、他のエレクトロニクスと集積して、オンサイト、ローパワーコンピテーションを可能にする。それは、生体環境に適合しているので、そのデバイスは、生きた組織と直接接続可能である。この点は、次世代バイオエレクトロニクスでは極めて重要である」とRivnayは説明している。
(詳細は、https://media.eurekalert.org)