June, 18, 2014, Tokyo--日本電信電話(NTT)は、MEMS技術を用いた新しい構造のフォノニック結晶を作製し、弾性振動、いわゆるフォノンの伝搬を電気的に制御することに世界で初めて成功した。
フォノンの流れを自在に制御することにより、既存のMEMSセンサの検出感度向上や、信号増幅器や周波数変換器、分配器といったMEMSデバイスの多機能化が期待される。さらに、フォノンの一種である熱の流れやすさを電圧で変調できる全く新しい熱機能人工材料の創製にも、この成果が将来的に役立つと予想される。
NTT物性科学基礎研究所がフォノン伝搬の電気的制御を可能にしたフォノニック結晶は、円形の薄膜振動部を有するMEMS共振器を、100個一列に並べたフォノニック結晶導波路で構成されている。
このフォノニック結晶導波路中に、電極を設けた制御用MEMS共振器を組み込んだ構造を作製し、電極に電圧を加えることによって発生するMEMS共振器の振動を利用し、フォノン伝搬のスイッチング制御やエネルギー転送に成功した。フォノニック結晶においてフォノン伝搬の電気的な制御が可能になったのは世界で初めて。
実験の要点
1.導波路の右端から5.5 MHzの交流電圧を印加することで、圧電効果を介して弾性振動を導波路内に誘起した。その伝搬の様子を空間的に測定し、弾性振動が導波路に沿って伝搬することを確認した。
2.弾性振動の伝搬速度を様々な周波数において調べ、フォノニックバンドギャップ近傍において、伝搬速度が著しく低下するスローフォノン効果を確認した。
3.導波路内に組み込んだ制御用MEMS共振器をその共振周波数で加振することにより、導波路に沿った弾性振動の伝搬を抑制することに成功した。
4.導波路内に組み込んだ制御用MEMS共振器を導波路の周波数と共振器の差周波数で加振することにより、導波路から制御用MEMS共振器へ弾性振動の転送を実証した。
技術のポイント
(1)MEMS共振器アレイによるフォノニック結晶導波路の形成
フォノニック結晶の周期構造に起因するフォノニックバンドギャップを用いることにより、フォノンを空間的に閉じ込めることや伝搬させることが可能となる。従来の技術では、フォノニック結晶におけるフォノンの伝搬を外部操作によって制御することは困難。NTT物性科学基礎研究所では、弾性特性の電気的な制御が可能なMEMS共振器をフォノニック結晶の基本素子として利用する独自のフォノニック結晶構造を考案し、フォノンの伝搬を外部から電気的に制御することに成功した。
(2)フォノンの自在な制御を可能にするパラメトリック制御技術
弾性特性の電気的な制御には、デバイスの非線形弾性効果によるパラメトリック制御技術を利用。同技術において、導波路中の制御用MEMS共振器に印加する交流電圧の大きさと周波数を調整することにより、弾性振動の抑制ならびに転送等、フォノン伝搬の多彩な制御が可能になる。
今回実現された動的なフォノニック結晶を用いることにより、既存のMEMSセンサの検出感度向上や、信号増幅器や周波数変換器、分配器といったMEMSデバイスの多機能化が期待される。NTTは、このような応用に向けて、動的フォノニック結晶の高周波化あるいは高機能化の研究を進めていく。さらにはフォノンの一種である熱も電気的に制御できる物質、つまり、電圧のオン・オフによって熱導体にも断熱材にも変質可能な新しい人工材料の実現も将来的に目指していく。
(詳細は、www.ntt.co.jp)